本と映画

「洞窟オジさん」(加村一馬 著)を読んで。

「こんな人生もあるのだ」。 名前は忘れたけれど、某映画評論家が1973年公開の映画「パピヨン」のレビュー冒頭に書いた言葉。これを、そのまま、この本の冒頭に私的に捧げたい。 終戦翌年の1946年8月末期に群馬県に生まれた、著者、加村一馬氏。都市、田舎を…

人間はいつの世にも考えることは変わりない〜六条御息所の恋を通じて思うり

六条御息所ネタを続けよう。 源氏物語の現代語訳を完結させた作家の瀬戸内寂聴氏は、ある対談で語っていた。「私は、源氏にゆかりがある女性の中で、実はこの六条御息所が1番好きなんです。あんな嫉妬深い女のどこがいいのと聞かれそうですが、人間的、あま…

六条御息所の恋

先ごろ急逝した八代亜紀のラスト盤「想い出通り」(5曲入りのマキシシングル。実質ミニアルバム)に、「六条御息所の恋」という歌がおさめられている。タイトル通り、源氏物語の主人公である光源氏の恋人の1人であった六条御息所の源氏に対する狂おしくも切な…

「恐怖のメロディ」(監督 クリント・イーストウッド、1971年、アメリカ)

邦題「恐怖のメロディ」(監督 クリント・イーストウッド, 1971, アメリカ)。 人気俳優クリント・イーストウッドの監督デビュー作。当時はまだ定義する言葉がなく「頭がおかしい人」くらいにしかとらえられていなかったストーカーに、自身も落ち度がなかった…

「ウッドストック行き 最終バス」(コリン・デクスター 作 大庭忠男 訳)

「ウッドストック行き 最終バス」(コリン・デクスター 作、大庭忠男 訳。原題 "Last Bus to Woodstock") TVドラマとしてシリーズ化されたモース警部もののデビュー作。時は1975年。そのリスクは、特に女性に危惧されながらも、まだまだヒッチハイク旅が盛ん…

邦題「最強のふたり」を観て感じたこと。

https://youtu.be/cXu2MhWYUuE "The Intouchables"(2011, France, Directed by Eric Toledano & Olivier Nakache) 邦題「最強のふたり」(2011年、フランス、監督 エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ)。 事故で身体障がい者となってしまった大富豪と、…

いろいろと、ゆるゆると。

2月の仕事をポツポツと打診されている。すべて、あの厳格で細かいルールを設けている、大型チェーンでの仕事。 ぶっちゃけ、やる気がおこらないのが本音だが、常にお断りしていたら派遣会社との「つなぎ」がなくなってしまいかねないので、そこは「適度な」…

世界で初めて空を飛んだ男

「30の発明からよむ世界史」の中に、我が故郷、岡山出身の浮田幸吉(写真はその記念碑。Wikipediaより)が紹介されていて、懐かしさでいっぱいになった。浮田幸吉。世界初の飛行に成功したライト兄弟より118年も前に、滑空機(グライダー)によってではあるが、…

「30の発明からよむ世界史」(池内了 監修、造事務所 編著)

「30の発明からよむ世界史」(池内了 監修、造事務所 編著) こういう本を読むと、あらためて「人類って本当にすごいものなのだなあ」と、祖先の偉大さに敬服したくなるし、今なお世界のそこかしこで起こっている事柄に対しても希望が持てるような気がする。「…

「百円の恋」(武正晴監督、2014年、日本)

「百円の恋」(武正晴監督、2014年、日本) 仕事をするでも家事を手伝うでもなく、まして将来へのビジョンなどあるわけなく、ただ部屋にこもってゲーム漬けの日を送っていたアラサー、一子(いちこ)が、ふとしたことからボクシングに目覚め、自分を作り変えてい…

「食と日本人の知恵」(小泉武夫 著)

「食と日本人の知恵」(小泉武夫 著) 著名な発酵学者であると同時に食に関する数々のコラムでも知られる小泉武夫氏が、日経新聞夕刊に連載を持っていたのは、1990年代だったか。その洒脱な感性とリズミックな文体は多くの人の心をとらえ、本書でもいかんなく…

基本がしっかりしているということ。

正月が終わって、はや4日。いくら何でも、正月ゆえの浮かれ気分は、もう卒業しないといけない。 我が家は、繰り返しになるが、夫が術後2ヶ月半も経っていないので、例年なら暮れから娘一家がやって来て正月が終わるまでいるところを、今年は夫婦2人だけの静…

「モンスーン・ウェディング」(2001年、ミラ・ナイール監督)に考える。

「モンスーン・ウェディング」(ミラ・ナイール監督、2001年、インド、アメリカ、フランス、イタリア、ドイツ)。 (あらすじ)インド北西部のパンジャブ地方を舞台に展開される、1人娘の結婚をめぐる人間模様を描く名作。 放送局に勤めるアディティ・ヴァルマー…

「黒衣の女〜ある亡霊の物語」(スーザン・ヒル原作、河野一郎 翻訳)

(注)12月5日に書いた記事。ら "The Woman in Black"(Aushor Susan Hill, Translator Ichiro Kono) 邦題「黒衣の女〜ある亡霊の物語」(原作 スーザン・ヒル、翻訳 河野一郎) 基本的に怖がりで、幽霊や化け物が出てくる怪談はもとより怨念に満ち満ちたタイプの…

「シェフ 三つ星フードトラックはじめました」(2014年、アメリカ)。

(注)12月1日に書いた記事。 邦題「シェフ 三つ星フードトラックはじめました」(ジョン・ファブロー監督、2014年、アメリカ)。 (あらすじ)ロスの高級料理店でシェフをつとめるカールは、有名グルメ評論家の来店に、自信がある、自らの創作料理を出そうとする…

若い頃にはわからなくても、時を経てわかってくる〜古典とはそういうもの。

(注)9月20日に書いた記事。 学生時代、一般教養科目の1つとして履修した「西洋哲学史」の担当教官は、元はキリスト教学専門で、この方の指示により授業では聖書を概略的に読まされた。つまり、彼の独断と偏見で選んだ章に、彼の解釈付きで目を通したわけだ。…

「50過ぎたら、ものは引き算、心は足し算(沖幸子 著)

「50過ぎたら、ものは引き算、心は足し算」(沖幸子 著)。 家事代行会社の掃除部門で働いている親友の話によると、サービスを依頼するのは高齢の方が多いそうな。 わかる気がする。掃除機1つとっても、体力が落ちて骨ももろくなった身体であれを扱うのは、正…

「風と共に去りぬ」を再観して考えた。

(注)6月8日に書いた記事。 気持ちの上では楽でない日が続いているせいか、連続仕事が終わった日曜日の夜は、身体は疲れているのに寝付けず、偶然YouTubeで見つけた不朽の名画「風と共に去りぬ」の映画を観ていた。 同名の原作は、中学校1年生の夏休みに一晩…

源氏物語はビジネスにも応用出来る〜古典はいつの時代にも通じるものを持つ。

昨日はI日中、京都御苑の森の中で「源氏物語」を読んでいて、あらためて感じた。「紫式部がこのオハナシを書いていた時、章が完成するたびに宮廷の女性が競うように読み、続編を楽しみにしていた、というのもわかる」と。 まず、源氏は帝(天皇)の子。日本一…

源氏物語ゆかりの地をめぐる。

源氏物語に再挑戦している。まず現代語訳(瀬戸内寂聴)を読み、次に注釈付きの原文を読むやり方。ページをめくるうち、物語にゆかりがある地を巡ってもいいなと思い始めた。 例えば、主人公の光源氏の母、桐壺更衣の実家で源氏が前半生に住んだ二条院はこの辺…

「華岡青洲の妻」(有吉佐和子 作)

「華岡青洲の妻」(有吉佐和子 作) 1804年、世界で初めて全身麻酔による手術を成功させた華岡青洲。その偉業を成し遂げた裏には、母の於継(おつぎ)、妻の加恵、姉の於勝(おかつ)など、身内の女たちの献身的な支えがあった。これは、主に母の於継と妻の加恵と…

「中世に生きる女たち」(脇田晴子著)を読んで。

「中世に生きる女たち」(脇田晴子 著) 我がまち京都には古本屋が多く、それを巡るのも、まち歩きの楽しみの1つ。今出川通に面した某古本屋の店頭で、歴史学者、脇田晴子氏によるこんな新書を見つけた。 前書き後書きを含めても全250ページ足らずの中で、脇田…

親や夫、持って生まれたものだけで決まる人生は息苦しい。

今日、北大阪の某百貨店で、久方ぶりに試食付きの仕事に入る。楽しみ。 人間、少なくとも、働けるうちは働こう! 各種支援金があってもね、それのみに頼っていたら、芯からダメになっていく。 瀬戸内寂聴氏が現代語訳した「源氏物語」を中途で放り出してから…

「マルタの鷹」(ダシール・ハメット 原作)

邦題「マルタの鷹」(原作 ダシール・ハメット、翻訳 小鷹信光) 再々読。41年前の初回時、27年前の2回目時、そして今回と、取り巻く環境の変化や、そのことないし重ねる年齢によるモノの考え方の推移はあれど、登場人物の心理描写を省いた、行動とセリフのみ…

平凡な営みこそが歴史を作っていく〜トルストイ「戦争と平和」から。

本を読んだり映画を観たりするたび、こう感じることはない?「主人公になっている人物って、性格も生き様も普通の道から外れていたりけっこうクセがあったりするタイプが多いなあ。いわゆる普通の人間が主人公になっている作品もあるけれど、何だかイマイチ…

東洋のモナリザ〜仕事以外でも、考えるは簡単、実行するはそうではない。

ちょっと! 困ったよ、このままじゃ、最悪、2月の仕事ゼロ。払うもの払わないといけないのに、どうしてくれるのよ、、、せっかく晩秋から暮れにかけて試食を伴うデモンストレーションが復活傾向にあったし、事実2月の仕事も推奨販売ながら入っていたのにすべ…

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」(米原万里 著)

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」(米原万里 著) ロシア語通訳者としても著名なエッセイスト、米原万里氏が、1960年から64年まで通った、在プラハ・ソビエト学校での同級生3人の「その後」を追うことで、あらためて社会主義も含む共産主義(マルクス主義では…

鞍馬天狗の思い出。

(注)2年前のFBの記事より。 今日、加入しているFBグループでの我が投稿にコメントを下さった方にレスポンスをしていて、あらためて思い出した。現在でこそ「超」がつく過疎地と化している我が故郷にも、その昔、一軒だけだけれど映画館があったこと。さらに…

コロナ禍に苦しむ今、「芸」の力を考えたい。

「長生きも芸のうち」(岡本文弥。インタビュアー 森まゆみ)。 1996年に101歳の長寿を全うした、新内節(しんないぶし)太夫、岡本文弥が、歩んできた軌跡や芸、人生観、樋口一葉その他の文化人との交流を語る。明解な返答を引き出す、森まゆみのインタビュアー…

フェニモア先生シリーズ

(注)2021年12月12日に書いた記事。 邦題「フェルモア先生、墓を掘る」(ロビン・ハサウェイ作、坂口玲子 訳」 (あらすじ)患者の健康よりも効率が優先されがちな大病院のあり方に疑問を感じ、父から受け継いだ診療所で昔ながらの治療を続けるフェルモア先生は…