(注)11月3日に書いた記事。
昨日の投稿で、創作や映像の世界のみならずビジネスや家庭生活においてもまずは「ストーリーありき」だと書いたが、このストーリーがどうもえがけないと言うか、そのとっかかりすら掴めないと語る人も中にはいる。
人生に対し、夢はもちろん、ほんのささやかな目標や計画すら立てられないのだ。
もう10年以上も前、あるイベントで数日間いっしょに仕事をした、某食品メーカーの営業ウーマンもそうだった。
イベントが無事に終わった日。現場から最寄駅まで車で送ってくれた彼女は、車中でポツンと口にしたのだった。
「私って何年後にはこうなっていたいとか、ゆくゆくはこんなふうに暮らしたいとか、そういうのが全くないんですよね」。
詳しく聞けば、彼女のまわりの友人知人たちは、将来をおぼろげながらでもおのおのにえがいているそうな。
「何歳までには結婚して家庭を持ちたい」
「ゆくゆくは職場で管理職に就きたい」
「いずれはこれこれの資格をとって独立したい」
その他。
「そんな先のおおっぴらなプランではなく、ごく身近な、例えば営業成績をあけて上司に認められたい、あるいは流行りの服を着て歩いて人に見られたい、この程度の願望すらないんですよ。ただ、毎日が普通に過ごせたらいいって。だから、お休みの日は一日中ダラダラしていますね」。
好きな男性(ひと)が出来たら変わりますよ、と言った聞き手の私に、
「彼氏は一応います。でも、私と似たタイプで。私がそうであるみたいに、彼もきっと何となく受かった大学に行って何となく採用された会社に就職して何となく仕事をしているんだと思います」。
最後に彼女は、このままこんなふうに流されて行くんでしょうねえと、やや捨て鉢気味につぶやき、
「ちょっとややこしい家で育って、争い事や揉め事を避けるため、あまり自分を主張することなくきたからこうなったんでしょうかね」
と首を傾げた。
最寄駅の看板が見えてきた時、私は彼女に提案した。
「何でもかまわないから、〇〇さんが今これをやっていて心より楽しいと感じることを、とりあえずはやってみたら? そのうち、〇〇さんなりの未来が見えてくるんじゃないんでしょうか?」
あの彼女はどうなっただろう?
もっとも、母娘ほども年齢が離れた他人の私に漠然と抱いている疑問や不安を話した(ぶっちゃけ、二度と会うことはないだろう他人だから話せたのだ)その時点で、彼女は自分のストーリーをえがきはじめる前の段階にいたと想像できる。
幸福な人生を歩んでいて欲しいと願う。
写真は、一番下の孫。