久方ぶりにいい映画を観た。
「八月の鯨」(原題"The Whales of August")。
今から34年前に撮られた。
特にナニカが起こるわけではない。
特徴あるキャラクターが登場するわけでもない。
ただ、小さな島で暮らす老姉妹とそれを取り囲む老人たちの日常が淡々とえがかれていく。
にもかかわらず、これほどまで心を揺すぶられ、余韻が残るのは、なぜ?
映画は、アメリカはメーン州にある小さな島の描写から始まる。
ここへ、夏になると避暑にやってくるリビーとサラの姉妹は、こども時代、沖に現れる鯨を見るのが楽しみだった。
そのリビーは、かつては夫を亡くした妹サラの面倒をみたが、白内障で盲目となった現在では、逆に、食事や散歩など、日々の生活のすべてに妹のサラの助けが必要になっている。
自分で自分の始末も出来ないリビーは気難しくなり、言葉についトゲが出てしまう。
そんなある日、サラは、釣った魚をお裾分けしてくれた帝政ロシアの貴族の末裔であるマラノフを夕食に招待したのだが、、、。
リビー役のベティ・デイヴィス、サラ役のリリアン・ギュシュ。2人の大女優の演技が素晴らしい。
特にベティ・デイヴィス。わざと発する人を傷つける言葉も含め、ものを言うたびに口元が片方に攣るのだが、その歪みと光を失った虚な目元に、他人の世話にならねば生きていけない己が身のふがいなさと老いを重ね合わせた孤独がひしひしとのぞく。だからこそ、リビーのサラの幼馴染みのティティの
「人生の半分はトラブル。あとの半分はそれを乗り越えるためにある」
の言葉が身に染みるのだ。
人間、1人で生まれて1人で死んでいくからこそ、1人=孤独を直視したくないのだね。
写真は、Amazonより。