セルフ・ネグレクトにまつわる話〜販売者が消費者に届けるのは商品だけでない。

(注)9月1日に書いた記事。

 

就眠中の熱中症で急死した知人の話を、先だって滋賀県湖西地方での仕事を終えて帰宅する途中、偶然にも車内で会った仕事仲間の1人にしたら、
「本当にお気の毒に。最近の夏は昔の夏とちゃうからね」
と返ってきた。
その上で、
「こんなこと聞いなんて本当に失礼なんやけど、その亡くなった人、まさかセルフ・ネグレクトやないやろうね?」


セルフ・ネグレクト。自己放任。ここ数年、時折り耳にする言葉に、一瞬、目を見開いた。
「えっ? あ、ああ、確かに1人暮らしだけれど、死亡推定日とされる前日には故郷のきょうだいと電話で元気に話していたと言うから、それはないかと」
「よかった」
と彼女。何でも、いま多いのだそうな、、、セルフ・ネグレクトが。
なるほど。コロナがこうまで長引いたら、不安のあまりウツ状態となり、仕事はもちろん、食べることも着ることも洗うことも、すなわち生活する上で必要なすべてのことにやる気を失う人も出てくるわなあ、、、。
いや、コロナでなくても、ほんのちょっとしたきっかけでそれは起こりうる。


彼女自身、若い時、セルフ・ネグレクトになりかかったことがあると言う。
「職場であらぬ疑いをかけられて。そのまま衝動的にやめます、ああご勝手にと言う状態に。以後、誰も信じられないから電話にも出ないし、何もする気がなくなって、アパートにこもる日が続いた。ほこりがうず高く舞い、床一面にゴミが散乱するようになってもほったらかし。そうこうしているうちにますます気が滅入って」
そんな状態から抜け出すきっかけを作ってくれたのは、化粧品の訪問セールスの女性だったと言う。


「ある日、突然に何度もベルが鳴る。いつもなら放っておくのに、その日に限ってなぜか外へ出た。〇〇化粧品のセールスレディ。全然それっぽい感じの人ではなく、押し付けがましくもなかった。でも、話したくないから、レディの質問にも答えず、早々にサンプルだけ受け取ってドアを閉めた」
早い話が門前払いである。


セールスレディはそれからちょくちょく訪問。応対に出てはサンプルだけ受け取り、ほうほうのていで追い返す。
「応対するのは、サンプルが欲しかったから。女って、不思議やね。髪ボサボサで肌カサカサになっていても、やっぱコスメに関心あんねん。で、そういうサンプルをもらっていたら、気持ちも変わってくるよ」


プラス、レディの一言が身に染みた。
「いろいろありますよねえ。ただ、落ち込んでいる時こそ、髪や肌の手入れをして下さいね。それは、心も含めて自分を大切にすることでもありますからね」


ああ、わかるわかる。
気持ちが沈んでいる時でも、美容院に行ってヘアがすっきりしたり、化粧品店のお姉さんにきれいにメイクしてもらって垢抜けた姿を鏡に見ると、嬉しくなるもんねえ。


次第に彼女は自分自身を客観視できるようになり、定期的に訪問を繰り返すレディにも心を開き、セルフネグレクト状態を脱することが出来た。
レディの方はあくまで化粧品の販売で彼女のもとを訪れていたのだが、結果的に彼女のメンタルを救ったわけだ。


販売者が消費者の元に届けるのは商品だけではない。