(注)10月10日に書いた記事。
発酵学の権威で食に関する洒脱なコラムでも知られる小泉武夫氏が、著書「食と日本人の知恵」(岩波書店)の中で書いておられた。
「煮物はそこにあるだけで落ち着く気がする。ごぼうとにんじんの煮染を見て、思い出のない人がいるだろうか」。
ううむ?
この見解、同著が初版された1987年(その時はサンケイ出版からの刊行で、本のタイトルも「知恵の食事学」な だった)ならじゅうぶんに頷けるが、令和の現在ではどうだろうね?
少なくとも、40代以下の人たちには、かなりの確率で当てはまらない気がする。
現に、37歳の我が娘。煮染を含め、煮物は決して好きではなかった。「子ども」と呼ばれる年代を卒業しても、ハンバーグとかグラタンとか、洋系のこってりした味のものの方が好きだったのだ。
ここいら、まあ、親の責任もあるのだけれど、ここ数十年で、日本人の食生活は変わったと思う。
もっとも、宣伝販売の仕事を通してこんな思い出もある。
15年ほど前の冬。某社製造販売の白だしをPRする案件を請け負い、煮染を作って試食を提供したところ、幼稚園児から小学校低学年くらいの年齢層の子どもに
「美味しい。美味しい」
と大好評で、結果的に当白だしを完売した。
デモした私も大いに驚いた。なぜって
「洋食に慣れているだろう子どもに、このようなメニューと素朴な味は、もしかすると面白がられるかもしれないなあ」
との、ほんの思いつきから、特に小さな子どもをねらって試食を渡したに過ぎなかったのだから。
「子どもは煮物が苦手、というのは、もしかして、大人の一方的な思い込みですかね?」
業務終了後、報告者にサインするそこの売場責任者に、私は尋ねた。
「あんなに喜んでくれるとは、想ってもみませんでした」。
「思い込みもあるやろね、確かに」
責任者は答えた。
「それプラス、子どもたちが、いつもとは違う環境と雰囲気の中で食べたことも大きいやろな。試食の現場は祭りの時の屋台に似ていて、どこかワクワクする部分がある。そんな中では、普段は何となく敬遠している食べ物も食べてみようという気になるし、食べると実際より美味しく感じられる。でも、それがきっかけになって、今まで食べられなかったものが食べられるようになったら、子どもも親も商売をする側も、全員が嬉しいわなあ」。
そうだよね。
これは、子どもに限らず、われわれ大人も含めたこと。
「思い込み」と「食わず嫌い」。
今日からやめよう。
写真は、2年前の正月、自分たちの家でおせち料理を食べる孫たち。
いわゆる和洋折衷おせち。たたきごぼうなど、煮物は若干あるが、残念ながらほとんど手をつけている様子はなし。
煮染はない。