
10年以上も前、ヨシダソースの創立者、吉田潤喜氏のインタビュー記事を、新聞の連載で読んだことがある。
大学受験に失敗し、母親が小さな食堂を営みながらコツコツと貯めていたなけなしの金を持って渡米した吉田氏。幸い空手教師として成功するも続かず、生活苦に陥った彼は、母親が店で出していた自家製ソースを製品化することを思い立つ。
もっとも、無名の人間が作った無名のソースを置いてくれる店など、あろうはずはない。
そこで、当時のアメリカでは珍しい試食販売を大手スーパーで実施することに決めた。
当日、吉田氏は
「商売も人生も目立ってナンボ」
の自己ポリシーを具現するかのように、カウボーイハットにプレスリーの衣装、そしてゲタをはいたスタイルで登場。
皆が驚く中、試食(デモンストレーション)をスタートさせた。
デモ中、ちゃっかり試食だけして買わないお客さんがいたので、吉田氏はその人を駐車場まで追いかけていって、尋ねたそうな。
「私はこのソースに命を賭けている。どこが悪かったのか、教えてくれ」。
その気迫に押されたのか、お客さんは2本買ってくれた。
命を賭けている、とはオーバーな言いようだが、これくらいのキモチがないと、無名の商品が業界の一角に食い込むことは難しいのかも知れない。
それにしても、商品に自信を持つがゆえにお客さんに食い下がっていく吉田氏も偉いが、買ったお客さんも偉い!(なぜなら、器の狭いタイプなら、味がどうのこうのとインネンをつけてモゾモゾ言い訳しただろうからね)
きっと、お客さんは、ソースもさることながら、吉田氏の商品への熱い思いや仕事に対する姿勢、具体的には積極性やポジティブな行動、すなわち吉田氏そのものをも買ったのだろう。
商売の基本は、やはり「対人」。
売買は、モノだけではない。
ただ、吉田氏の成功は、舞台がアメリカだったからこそあり得たかも。
まず、カウボーイハットにプレスリーの衣装をまとい更にゲタをはくというデモ時の服装からして、日本では恐らくアウトだろう。
星条旗のもとにフロンティア精神が根ざしている社会なら「目立ってナンボ」だけれど、島国の「周りに合わせること」を最重視する社会では、あまりに目立つと逆に排除される。
どちらがいいとか悪いとかの問題ではなく、国民性だね。
破天荒な吉田氏は、やはり狭い日本を飛び出して正解だったのよ。