20年ほど前、健康酢のデモ(黒酢をはじめフルーツ酢やもろみ酢その他の飲む酢がブームになっていた時代があり、宣伝販売の回数も多かった)で大阪府中部にある某スーパーに立っていた時、試飲したお客さんの1人に言われた。
「(飲む)酢ってホンマにマズいね。水でなく炭酸やジュースで割ると美味しいと言うけれど、それでも私はアカンわ。でも、コマーシャルや人の話なんかでは毎日コップ1杯飲むと身体にも美容にもエエ言うんで、我慢して飲んでんねん。主人は、そんなマズイマズイと顔をひん曲げながら飲んでもストレスたまるばかりで、健康食品やのにむしろ健康に悪いんちゃうかと、笑うんやけどな、、、」
よくよく聞けば、このお客さんは酸っぱいものが苦手なわけではなく、野菜なり海藻なり魚なりを三杯酢や甘酢、酢味噌などで和えたものは普段の食事で日常的に食べていると語る。
つまり、酢は食べることで充分に摂っているわけなのだが、「飲む」ことでは摂っていないし、それと関係があるのか、飲む酢には抵抗感を免れないんだそうな。
「どうしてもダメ」
と。
もっとも、日常の食事で酢を摂っているのなら、そこにわざわざ「毎日コップ1杯」の酢をプラスしなくてもよいと、販売している私は素直に思い、
「お客さんみたいな方は、無理に(飲む酢を)飲まなくてもいいですよ」
と話したものの、、、ああ! 彼女、すっかりハマってしまっているのね。
いや、ハマらされているのね。
酢ばかりではない。
同じく健康食品とされる豆乳や青汁、さらに今回デモを請け負った植物性ミルクも、押し並べて宣伝に
「コップ1杯の◯◯を毎日摂る」
ことを、有名タレントやスポーツ選手を販売戦略のIつであるイメージキャラクターとして起用し、彼らを通じてさりげなく浸透させていく。
なぜなら、この「コップ1杯」は、苦手な食材でもトライかつ続けやすい単位だからだ。
2010年代、やはり大阪府中部にあった小ぶりなスーパーで青汁を宣伝販売した時、
「長期の海外滞在を控えている」
ことを理由に、我が担当商品をまとめ買いしてくれたお客様は、こう言った。
「青汁は野菜不足にいいとされていますけれど、日々の食事でしっかり野菜や果物を摂っている私には、本来は必要ない。でも、忙しくて自炊できない時とか市販の弁当が続く時とかには野菜不足になりがちだから、手軽に野菜成分をとれる青汁はとてもありがたい。それと、今回みたいに衛生面に問題がある国に出張で行く時も。そこの国は水が自由でないんで、レストランで出てくる野菜、(日本のように)きっちり洗っていないんです。下手すると食中毒なんで食べられへん。やから粉末青汁を持っていって、ホテルのミネラル・ウォーターで溶かして飲みますねん。(青汁)、助かってますよ」
これでいいんですよ。
健康食品は、あくまで日々の食生活からくる足りない部分の補填であり、補助。
ゆめゆめ「コップ1杯」の宣伝文句に踊らせれてはいけない。