ペットフードの推奨販売で店頭に立っていると、お客様から担当フードやペットの食べ物以外の
ことでも相談を受けることがある、と前に書いた。
普段からネットのペットサイドやペット雑誌をマメにチェックして知識を得、ペットと暮らす友
人たちから受けた情報や自分自身の体験も交え、わかる範囲でお答えしているが、これが案外と難
しい。
人間関係の希薄化がますます進む中、犬にしろ猫にしろ、もはやかつての犬や猫と同じに考えて
はいけない場合が、珍しくないからだ。
こんなお客様がいた。
七十代前半とおぼしき男性で、現在は14歳になる雄の柴犬と二人(?)暮らし。奥さんとは十数年前
に死別した。二人の息子さんは、共に海外で生活していて、滅多に会うことはない。
取り残されたお客様は、寂しさから酒に溺れ、何度も酔いつぶれた。
庭先で前後不覚になった時は、まだ寒気の残る三月初めで、下手をすると命を落としたかも知れ
ないのに、愛犬がお客様の顔をずっとなめていてくれたおかげで目を覚まし、助かった。
お客様にとって、犬は、もはやオーナーとペットとの関係を超えた、人生のパートナーなのだ。
彼が、客観的にみて犬を甘やかし、そのことが犬の命を縮めているとしても、
「ワシ以上にコイツは老い先みじかい身ですからな。細かいことは言わんと、好きにさせてやりた
いんですわ。こいつが喜ぶのを見ると、ワシも嬉しいし」
と返されては、帝石通りのアドバイスをしてよいかどうか、迷ってしまう。
我家の犬たちも高齢犬。お客様の気持ちがとてもよくわかる。
たった一つのペットフードを介したやりとりにも、人ないし犬が歩んできた軌跡が、一瞬のうち
に反映してしまうことがある。
これは食べ物も同じ。
即席漬け物の販売をしていて、一人のお客様に長々と亡くなったご主人の思い出話を聞かされた
のは、四年前の夏だったか。
お客様は、最後には、涙ぐんでいた。