今夜は最高

 最高の日だった。
 
 ペットフード。
 味噌や米同様、決まった銘柄に固執するお客様が多い商品だけに、
デモンストレーションしたからとて、そう売れるものではない。
 
 否!
 味噌や米の方がまだデモをやりやすい。
 試食を通じ、お客様に味を知っていただくことが出来るもの。
 
 ペットフードには、「試食」という武器がない。
 当のペットはもちろん、飼い主さんにすら、味をみてもらうこと
は不可能(理屈の上では人間もペットフードを食べられる。が、塩分
を押さえてあるので、人間にとってはひどく頼りない味なんだそう
な)。
 いきおい、口で売るしかない。

 だから、ペットフードは販売が難しいのだ。

 なのに、今日は、どうしたのだろう?
 デモをスタートし、終了する時間まで、切れ間なく、よく売れた。
 ペットフードを担当して以来、これまでの最高記録を達成した。
 今日は特別に売上のよい店舗ではないし、こちらも気張っていな
かったのに。
 むしろ、前日の店舗の売上不振が尾を引き、いささか気落ち気味
で現場に臨んだ日ではあった。

 う~ん?
 繰り返す。
 どうしたのだろう?

 さて。
 亭主がいない夜。
 これからゆっくり風呂に入り、好きなものを食べ、DVDを観ると
しよう。

 最高だぞ!

 亭主のいない夜を最高と感じられるうちこそ、本当に「最高」よ
ね。
 いずれ、どちらかはいなくなるのだから。
 
 五十歳を過ぎると、こういう「近い現実」も脳裏をのぎってしま
うのだ。