ちょっと固い話が続いたので、「焦るな」シリーズは今日は辞め、別の路線の話をしたいと思う。
この月曜日は、滋賀県中部の守山で仕事。担当商品は栄養ドリンクの王者リポ*タンDのライト版。本家本元が誇るタウリン(疲労回復に効果があるとされる)の量はそのままにした上で、気になるカロリーを抑えた、ヘルシー志向ドリンク。カロリーカットしたぶん、味も本家本元よりはすっきりとして、飲みやすい。
本来は売れ筋の商品のはずが、朝から降り続く雨にたたられてお客様の数も少ないせいか、販売数はどうもパッとしない。
それでも、私の心中は、天気と裏腹にリラックスしていた。
理由は、現場のスター水保店に向かうべく、JR守山駅から乗った、ラフォーレ何とか行きのバスの窓の両脇を流れる田園風景の美しさ。
おおらかで、のびやかな稲穂の群れは、亡母の故郷、岡山県は邑久郡の千町平野を想起させ、同時に亡母およびその母、すなわち母方の祖母をもー記憶に蘇ってきて、目頭が熱くなった。
プラス、バスの運転手、そして乗り合わせた人も、母の故郷そのものだった。
スター水保店には、以前の派遣会社に登録していた時、二度ばかり行ったことがある。
とは言え、何年も前のこと。
記憶の片隅で店舗がどこにあるかは覚えていたが、既に曖昧化しつつあった。
それを補ってくれたのが、近江鉄道バスの運転手であり、同乗した見知らぬ婦人だったのだ。
守山駅を出た先のバス乗り場でうろうろきょろきょろし、目を食い入るようにして時刻表を見つめていた私に、四十代とおぼしき上品な婦人が声をかけてきた。
「どちらへ行かれるのですか?」
私は答えた。
「このはままで。スターと言うスーパーで仕事をするためです。時刻表、以前と変わったみたいですねえ。何かわかりにくい」
「ああ、それなら、私もそちら方面に行くので、私が乗るバスに乗りはったら?」
バスに乗り、席が前と後に分かれた私と婦人は、少し雑談をした。
「奥さん、どちらからきはったん?」
「京都から」
「そうですか」
しばらくして、バスが走る先の風景に亡母の故郷に似たものを感じた私は
「守山には何度も来ていますが、いつも亡くなった母が過ごした地域に似ているなあと、感傷にひたってしまうんです」
「まあ、そうなん。それって、あんたのお母さんが天国からメッセージを送っているんよ。頑張りなさいと。今日も、こんなザザ降りやけど、ええことあるよ、きっと。お母さんが守ってくれはるんやもんねえ」
婦人は、私が降りる少し前の停留所で降りた。
降りる時、運転手に言った。
「この奥さん(私のことょ、このはま農協前で降りはるんやて。ここの人やないから、お願いしますね」
果たして、このはま農協前が近づくと、運転手は私に告げた。
「奥さん、次ですよ。えっと、スターに行きはるんですね。それなら、バスを降りて……」
みんな、ありがとうね。
販売数は今一つだったけれど、ま、雨でお客さんはスカスカやったし、しゃーないやね。
私としては、具体的な数値より、そんな中でも買って下さったお客様に感謝したいのだ。
カナート洛北店の統括マネージャー井*の人を人とも思わぬ横柄な態度(この人、後で仲間たちからの
連絡で知ったが、まあ評判悪いの何の)に傷ついていただけに、余計に暖かさが染みた。
ちなみに、スターといい、京都の山田屋といい、周山のサンダイコーといい、地域密着型で店舗展開しているチェーン店は、私たちマネキンにも良い意味で優しい。
私の体験では、100%そうだ。
これって、偶然かなあ?