トンチンカンなことを大真面目に

 さて、本番の日記。
 もしかすると、一昨日のぶんだけになるかも知れない。
 明日から三日連続勤務、しかもすべて超理系で荷物をかついでいかなくてはならないので、早く休まないといけないからだ。

 一昨日の火曜日は、京都府内の某ドラッグストアにて、T製薬製造販売の鉄ドリンク。50mlが三本セット
で648円と、ハイプライスな商品だ。ま、これ一本でほうれんそう二束分の鉄分を含んでいるから、それなりの価値はあるんだけれど(鉄分が不足すると疲れやすくなったり貧血になったりするが、鉄分は食事からはなかなかとりにくい)。
 価値はあるから、本当に必要な人にあたると、
「高いなあ」
 とこぼしながらも、購入して下さる。
 我々マネキンの役目は、大勢の方に試飲を薦め、商品説明をしながら、その「本当に必要な人」をいかに掘り出すかということ。

 とは言え、一昨日の店は無理よ。
 来店される方のほとんどは中高年の主婦で、地域柄か、価格にとても敏感。買い物を積んだカゴの中身を一見しても、それは容易にうかがえた。
 そんな中、販売するのがどんなに大変だったことか。

 わけても、最近のドラッグストアは売上に厳しい。
 我々マネキンにもぐいぐいと圧力をかけてくる。
「ドラッグストアの店長は薬剤師が多い。薬剤師なんて、本来職人やん。販売のしんどさがわかるはずがない」
 と、仕事仲間の一人。
 ふうん。まあ、そうなんだろうか?

 それは、ともかく、一昨日のドラッグストアの店長にはむかついたね。
 T製薬は売上にやかましいメーカーということもあり、必死で販売して15パックを数えた頃、ずかずかとデモをしている私に寄ってきて
「定番に2パック戻されていたよ。買ってくれたお客さんにつけている景品だけとってね。ウチで宣伝販売している人は皆、お客さんが商品を買ったらレジまで案内がてら商品を持っていっているよ。そうして」

 きょとーん。
 あんた、お客さんは他にもいろいろと買い物をするんだよ。そりゃ、数をまとめ買いしてくれたお客様なら持ち歩くのにかさばるし、レジまで運ぶが、三本セット1パック買ってくれたお客様にまでそれをすると嫌みになる。
 お客様にレジで勘定をすませた後にデモ場所まで戻ってきてもらって景品をつける方法もあるが、これまた、難しい。何故って、勘定をすませたら早く出口に向かって帰りたいのが人情。重い荷物持って
わざわざデモ場所までまた足を向けるなんて、面倒だ。
 そもそも購入した商品を定番に戻されることは、他の商品でもよくあること。ある程度は覚悟しておいてよい。

 そもそも、返されたのは2パックでしょ。残り13パックは売れたわけでしょ。
 あの高い商品を売る難しさを考えたら、いちいち細かいこと、いいなさんな。
 
 こんなトンチンカンなことを大真面目に言うおっさんがすっかり嫌になり、
「あんたの店なんかにもうけさせてやるものか」
 と、勤労意欲は大幅にダウン。以後は機械的トーク
 売上もストップ。

 でも、二十数分後、ふと想ったのだ。
「トンチンカンなことを大真面目に言うということは、おっさん、そんなに深い意味をこめて言ったの
ではないかも知れないな。販売経験がないから、感じたことを何気なく口にしたのだろう。悪気はない
のかも」。

 またやる気が出てきた。
 売上も上を向いた。
 最終的には17パックをマーク。

 とは言え、ああいうことを言われたのは不愉快で、帰り道、同業者にメールでさんざん愚痴った。
 あの店には二度と行きたくない。

 もっとも、こういう的外れな指令を出す人が珍しくないのが、ドラッグストアなのだ。