忍者の里は不便

 納豆ネタに付随した甲賀ネタを、今一つ。

 甲賀は伊賀と並ぶ忍者の里。忍者修業の場の常として、四方を山に囲まれた、静かな地だ。
 事実、JR草津から草津線に乗り換え、手原、甲西、三雲、貴生川と走っていく電車の両脇に流れる景色を眺めていると
「汽車が開通するまで、この辺りは、田んぼ、田んぼ、それから、山、また山で、人は歩いて京に向かっていたんやろうな。もっとも、そう高い山でもないから、山犬(狼)やイノシシ、追いはぎは出んかったやろ。それでも、ここを人足で越えるのは容易ではなかったやろ」
 との想いが沸き起こってくる。
 つまり、地形的に交通の便も悪いのだ。

 現在でも甲賀へは行きにくい。
 草津線は本数が少ないし、手原にしろ、甲西にしろ、三雲にしろ、貴生川にしろ、駅から連絡するバスも多く出ていない。
 乗り遅れると、一時間か二時間、時間帯や日によってはそれ以上も待たねばならない。
 しかも、時代を反映してか、バスの路線はますます少なくなっている。

 12日は平和堂水口店で仕事。店舗の最寄りバス停留所まで、早足で歩いて五分弱。
 18時台のバスは、15分発の三雲駅行き、これきりだから、業務終了後は直ちに店の責任者に印鑑をもらい、退店手続きをすませるや、停留所までダッシュしないと間に合わない。
 ところが、運悪く、責任者の姿が見えなかったり、いても仕事上の電話対応に追われている場合がある。12日もそうだった。
 6時のベルが鳴ると、パッパッパッと試食台とゴミを片付け、アイスクリームの宣伝販売で来ていた女の子と二人で責任者の姿を探しまわったが、いない。
 やっと見つけ、はんこをもらい、警備員の手荷物検査を受けた時は、既に6時12分をまわっていた。

 走った。走った。
 ハアハア。ゼイゼイ。
 喘ぎ喘ぎ、喉はカラカラ、足はガクガク。
 それでも、走った。走った。
 バスの停留所が見えてくる。
「お願い。バスちゃーん、まだ来ないでね」
 思わず口をついて出る。
 何たって、このバスを逃したら、一時間待たないといけないのだ。
 寒風の中、震えながらの一時間ですよ。
 それを考えたら、絶対にバスに遅れてはいけない。
 例え、口から心臓が飛び出そうと、走らねばならない。

 やっと間に合い、バスの座席に座った後も、しばらく動機が止まらなかった。

 ふと頭をよぎった。
 忍者なら、この距離、どれくらいの時間で走ったのかしら?
 音を立てず小走りにする忍者特有のランニングスタイルで、サササササーと、一分もかからないのではないかしら。
 忍者のトレーニングって、アメリカのオリンピック選手のコーチも取り入れたくらい、科学的で合理的らしいからね。

 今度甲賀に来る際には、一つ、忍者ランニング法を研究していくとしよう。
 ほんの少しでも取り入れることが出来たら、こんなに急がなくてもいいはずだもの。