ものが売れない土地 と 印象が薄い土地

こういうのを客筋ならぬ「地筋」と言う?
 何をどうやってもモノが売れない地域は、確かにある。

 一つだけ例をあげよう。
 滋賀県栗東だ。
 JR草津駅を普通電車で二つ北に向かうと、こぎれいな駅に到着する。一時は「新幹線をよぼう」と
さかんに喧伝された栗東駅である。
 ここから、駅つながりに二つの店舗に行き着く。一つは平和堂栗東アルプラザ。もう一つはスター
栗東駅前店。
 店舗立地条件は最高だし、店舗の品揃えもよく、外観も美しいのに、肝心の売上はと言うと?

「結局、ここは中途半端な位置にあるんですよ」
 売れて当り前とされる明治のプロビオヨーグルトのあまりの販売成績にがっくりしてうなだれてい
た私に、キムチを販売していたおにいさんが言った。四年前の話だ。場所は栗東駅近くの某スーパー。
「車で少し南に走ったら草津。北に走っても守山でしょ。どちらにも、大きなアルプラザ(平和堂の大
型店舗)がある。しかも、ブティックやレストラン、遊興施設まで併設している。最近は共働き世帯が
多いこともあって、買い物は家族総出で週に一度の家庭も珍しくない。となりゃ、お客さんは、そち
らに行きますよ。こうした中間地点にある店は、買い出しの時に買いそびれた商品を求めるか、近所
の人がその日のおかずを購入するために足を運ぶか、どちらかですよね」
 おにいさんは、栗東に派遣される日の売上は期待していないと語った。
「この地はダメです。誰が来ても、どの店に行っても、売れない」

 ふうむ。
 でも、そういう地にも店は必要だしなあ。
 それに、消費者の立場からすれば、店がすいているぶん、本当に欲しいものをじっくりと選べる利
点がある。

 ちなみに。
 栗東って、モノが売れないだけでなく、街全体もどこか影が薄い。これも強烈な個性を放つ草津
美術館をはじめ様々な文化施設に恵まれた守山にはさまれたゆえん? まあ、それだから余計に「新
幹線よ、カム・オン」と熱い視線を送って何とか栗東をアピールしたかったんだろうけれど。

 県や国にもそういう地があるね。
 個性が強い県や国が隣にあるばかりに、今ひとつ印象が薄い県や国。
 これも一つだけ例をあげる。
 カナダだ。
 アメリカという「ウルトラ自己主張が強い国」が隣にあるばかりに、政治的にも文化的にも、いま
一つぼやけている。
 だって、カナダと言う言葉を聴いても雪と氷以外はピンとこない人が多いでしょう? 他にはせい
ぜい少女小説の傑作「赤毛のアン」くらいでしょう? ポピュラー音楽が好きな人なら、カナダ出身
ジョニ・ミッチェルだとかニール・ヤングだとかアン・マレーだとかゴードン・ライトフッドだと
かゲス・フーなんて浮かんでくるけれど、少数派のはず。
 料理だって、カナダ料理など聞いたことがない。
 美味しい料理とはお世辞にもいえないお隣のアメリカなら、ジャンバラヤとか「アメリカのおふく
ろの味」であるローストビーフとかコカコーラとかハンバーガーとか、幾つか浮かんでくるのに。

 もっとも、こういうものが売れず、印象も薄い地にはそれなりの良さがある。
 人々がおっとりしていて、それでも自分たちの価値観はしっかりと守り、どーんと地に足をつけて
生活している点。軽薄でないのだ。
 とあるサイトで海外生活が長い商社マンが投稿していた。
「仕事でカナダへ行くとほっとします。ニューヨークなどの北東アメリカでは、機関銃よろしく早口
で英語をまくしたてないと契約が成立しない。カナダの人はあんな話し方はしません」

 草津をひかえた栗東アメリカに対するカナダみたいな位置?