美濃市レポート その三

さて。
 十一月十九日から二十一日まで仕事をした美濃市でのレポートを続けよう。

 初日の十九日。ホテルをかっきり六時に出、長良川鉄道始発で美濃に向かったことは、すでに述べた。
 この長良川鉄道と言うのがカタツムリのような可愛らしいワンマンカー。ガタゴトとアナログチック
な音もリズミカルに、晩秋の田園地帯を走る。
 田の畦で揺れるコスモス、農家の庭先にポンと置き忘れたようにころがる子どもの長靴、くすんだ光
を放つ小スーパーの灰色の壁。ありきたりの田舎の風景なのに、独特の詩情が漂っている。
 こう感じてしまうあたり、少なくとも意識の上では私は都会人になってしまったのかと思った。
「都会」というフィルターを通して田舎を見ているのだ。
 
 途中、フェザーだったか、カミソリで有名な会社の看板が視界に入ってきた。
「ははあ。なるほど」
 と納得。と言うのは、昨夜ホテルにたどりついてチェックインする際、
「ネット予約して下さったお礼です」
 とフロントに渡されたのが、フェザーカミソリと替え刃だったから。

 七時三分。目的地の松森に着く。無人駅。周囲に人家はなく、あるのは駅の背後をおおう森林と畑
とひからびた田舎道。公衆電話はもちろん、自動販売機もない。
 前々日、美濃市のタクシー会社に電話をかけ、待機車を予約しておいて本当によかった。

 ある人が言った。
無人駅は旅人のロマンをかきたてる」
 確かに。
 もっとも、それは、旅人だから出る言葉だ。
 非日常行為、もっとずばり言ってしまえば「贅沢」(旅とは基本的に贅沢なものだ)の延長である旅
でその地を訪れた人と、その地に実際に暮らす人とでは、視点が違う。

 タクシーに乗り、現場のオークワ美濃インター店へ。
 この美濃市が歌手の野口五郎の故郷であることを知ったのは、店に着いてしばらく経った頃だった。