雪しんしん。思い出しんしん。

雪ネタを続けよう。

「私は雪の降る日が大好きなんです」。
しんしん降り注ぐ雪を、店の窓越しに見やりながら、売り子の私にこう明かしたお客さんがいる。
数年前、滋賀県中部にある閑静な町で、パスタ麺をデモンストレーションしていた時のことだ。

「私は自宅で仕事をしており、今日みたいな日は、あえて早い目に切り上げるんです。そして、熱い風呂にゆっくりと入り、出た後は、お客さん用に置いてある極上のお茶を淹れます。もちろん、仏壇の家内にも淹れてやります。
それから、お茶を飲みながら、降る雪を眺め眺め、家内との日々を静かに振り返ります。雪が積もるに連れ、思い出も私の記憶の中で積もっていきます。楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、寂しかったこと、どれもこれも積もっていきます。積もり終わると、最後には、雪と同じように私の心も真っ白になります。
だから、私は雪の日が大好きなんです」。

連れ添い合い、現世での関わりか終わってしまったその後も、こういうカップルでいられたらいいねと、つくづく感じる。