スーパーと大学は冬の時代~その4~人間力で勝負しよう!

前回の記事で、このようなことを書いた。

「商売は商品を仲介とした人と人との関係。始まりは対面。価格面などで大手に押されがちな中小スーパーが生き残る秘訣が、ここにある」と。

そうなんですよ。
お客さんと日々接している従業員を忘れてはいけないんですよ。
もっと正確には、従業員の「人間力」を。

ここで、和歌山は貴志川線貴志駅の前駅長、たまを思い出して欲しい。
死にかけていた貴志川線を蘇らせたことで知られているたま。元は貴志駅構内の店で飼われていた、どこにでもいるような三毛猫だった。
それが、何の因果だろう、人懐っこいキャラを見込まれて駅長に就任するや、「猫の駅長とは面白い」とマスコミに取り上げられ、「名物猫」となる。
結果、たまに興味を持ち、自らの目でその駅長ぶりを見ようと、大勢の人が貴志駅に押しかけるようになった。
貴志駅に行くには貴志川線に乗らないといけない。
当然、貴志川線の乗客は大幅に増え、超赤字線の汚名はわずか一年で改善された。

中小スーパーもこれを応用したらどうか。
「名物猫」ならぬ「名物店員」を置くのだ。

例えば、精肉部門に勤めるAが市民マラソン大会に出場して入賞したとか、パートレジのBはアマチュアコーラス団の一員で老人ホームでもボランティアで歌っているとか、早朝品出しのCは地域の川の美化運動に参加しているとか。
こういう話は、その店舗の社内報ではよく紹介されるのだけれど、店に足を運ぶお客さんに知られることは非常に少ない。
従業員を自慢しているととらえられるからだろう。

その発想をやめるんですよ。
社内報でそうしたように、お客さんにも伝えるんですよ、従業員のイイトコロ、バーンとね。
店内の掲示板に告知ポスターを貼ってもいいし、新聞の折込チラシの片隅に刷り込んでもいい。
とにかく、お客さんに
「へえ! 私が来ている店にはこんな人がいるんや」
と、「店員」としての従業員ではなく、「人間」としての従業員そのものに興味を持ってもらう。
もともと中小スーパーは大手に比べると、従業員とお客さんとの距離は近い。それがますます狭まって
親しみがわくのだ。
その親しみが売り上げにつながり、利益が出る。
利益幅は小さく、貯金に例えたら、まあ小銭預金みたいなものだろうが、利益は利益。
それに小銭預金を実践した体験がある方なら、知っているはず。
貯金箱にチャリンチャリンと放り込む五円玉や十円玉も、積もり積もれば決して侮れない金額になるということを。

私自身の体験も述べよう。
10年近く前、乳製品の宣伝販売で、レジが四台しかない地方の小スーパーを訪れた。
すべてのレジ横に置かれてあった、折り紙の雛人形に、思わず
「わあ、可愛い!」
と叫ぶと、その店のチェッカーチーフが教えてくれた。
「パートの一人が折ったんですよ。手先が器用で、毎月、季節感たっぷりの、こういうのを作ってくれるんですよ、、、二月は雪だるま、五月は鯉のぼり、八月はひまわり、、、こんな具合に。この折り紙が見たいから店に来るお客さんもいるんですよ」。
さらに、そのパートは児童館でボランティアをしており、児童館に通う母親たちも来店してくれるとか。

かくして、「名物店員」のうわさはどこまでも広がり、人が自然と足を向けるようになる。

人間力は、実は誰でも持っている。
折り紙などの特技はなくても、笑顔が素晴らしい、声がよく通る、お年寄りや子どもを持つお母さんに親切、細かい箇所にもよく気がつく、、、などなど。
それを、謙遜などしなくてよろしい、どんどんアピールしましょう!
従業員の人間力こそ、店の最大の武器で、それはむしろ中小規模だからこそ、前面に出せる。

人間力を武器にする発想。
少子化を迎え、学生数の減少に苦しむ大学にも通じるはずよ。
だって、「名物教授」は、必ずしも海外の名門大学で博士号を取ったり、有名学術誌に論文をたくさん書いていたりする人でなくても、自身の農哲学にのっとった栽培法で作物を育てているお百姓さんや、商店街の一角で一つ一つこだわりを持って饅頭を作ってきた職人さんや、そういう人でもいいはずだから。
実務に就ている者ならではの、貴重な「学」を授けてくれるはず。

もちろん、お百姓さんや職人さんに体系だった講義は無理だろうから、そこは、学生も参加するスタイルにしたり、講義進行役として司会を置いたり、相応の工夫は必要だろうけれどね。