非正規雇用労働のデモンストレーターでよかった、という人

「非正規雇用労働者のデモンストレーターだったからこそ仕事を続けることが出来た」。
こう語ったのは、同業者のZさん(仮名)である。

元々は大手スーパーの店舗事務職だったZさん。勤務先は福利厚生はきちんとしていたし、一応は労働組合もあったけれど、内実は今でいうブラックそのものだったと語った。
「正社員は、何かちょっと役がつくと8時頃に出勤して10時過ぎに帰宅といった有様で、サービス残業やサービス休日出勤は当たり前。後方の事務ともども明らかに人員不足の状態で店をきりまわしていた。でも、当時は小売業界に限らず、保険でも金融でも建築でも、ほとんどの業界でそうだったのよね。24時間仕事中で会社に滅私奉公。それでこそ正社員みたいな」。
とは言え、こんな労働環境では、仕事と家庭を両立させるのは、特に女性にとっては至難の技。
結婚が決まると惜しげもなく退職した。

12年後。下の子どもが小学校三年生になったところで、ファミリーレストランにパートで再就職。
ところが、そこはパートと言えどシフトがしっかり組まれていて、家庭や子どもの学校で起こるイレギュラーな出来事にスンナリと対応出来ない。小学校三年生ならまだまだ急な発熱や腹痛、怪我などはつきものだし、地域やPTAの臨時の集まりだってあるのだ。
困っていたところへ、このデモンストレーターの仕事にたどりついた。
「ある日、家の近所のスーパーに行ったら、昔つとめていた店によく仕事に来ていたデモンストレーターのおばちゃんに再会して。懐かしさでつい身の上話をしたら、じゃ働き方に融通がきくデモンストレーターをやりなさいよとすすめられ、おばちゃんが所属する派遣会社に登録して」

Zさんが示した勤務希望条件は二つ。まず、当面はご主人が家にいる日曜日だけ働くこと、二つ目は、夕食を作る時間にギリギリ間に合うよう片道40分以内で行ける現場であること。
派遣会社は、Zさんの意向に沿う現場をまわしてくれた。

「そうこうしているうちに、下の子も母親が働く意義をわかって家の手伝いをするようになったし、上の子に教育費が必要になったので、社長に話し、仕事に入る日数を増やしてもらった。もちろん、現場も少しくらいなら遠くても良しとして。
二人が上の学校に行くと、仕事日数も現場への距離ももっと。
子どもたちにお金がかからなくなると、今度は私の母の介護が始まったので、また社長に、仕事を減らしてなるべく近場を紹介してくれるよう、お願いを聞いてもらった。
女の人は、現状では家族のことを第一に考えないといけないことが多いから、ライフスタイルの変化に合わせて弾力的に仕事の対応が出来るデモンストレーターはとてもいいと思う」。
確かに。

ただこの場合、相方、すなわちご主人に安定した職業と収入があることが条件となるね。

私自身は、不安定さはさておき、アルバイトも含めて今まで就いた仕事の中では、デモンストレーターが一番楽しい。
楽しいから、技術的性格的な適性はなくても、感性的には大変に合っていると思う。
とすれば、デモンストレーター業のデメリット面をカバーする方法を探せばいいということね。
次回はそれについて書こう。