日本一のチェッカー

チェッカーフェスティバルをご存知だろうか?
スーパーマーケットでチェッカー(レジ係)を務める人たちの業務に対する意識を高めると同時に、スピードや正確さなどの技術向上を目指し、年に一度おこなわれる、レジ作業実務コンテストである。

10年くらい前のことか。
当時の自宅近くのスーパーの壁に、こんな告知が貼り出された。
「日本一のチェッカーが当店から誕生!」
との大見出しの下に、その店の店員の制服を着た女性の顔写真が載り、
「当店のチェッカー〇〇田△△子が、チェッカーフェスティバルで、みごと最優秀賞に輝きました!」
と、説明があった。

「へえ! 日本一のチェッカーねえ。どれ、どんなレジさばきをするのかしらん」
告知内容を読んで好奇心にかられた私は、さっそく彼女が立つレジ台に並んだ。

驚いた。
素晴らしいを通り越してスゴイの一言。
挨拶の明るさ、笑顔の優しさ、こちらが買った商品をスキャンして清算カゴに移し替える迅速さ、その際の商品の並べ方の美しさ、言葉の明瞭さ、気配りの的確さ、金銭の受け取りとお釣りの渡しにいたるリズミカルな流れ。
どれをとっても、そこいらのチェッカーと全く違う。
何より、レジを通り過ぎた後の、心地よい余韻。
「またこの店に来て買い物をしよう」
こんな気持ちにさせてくれたのだ。
さすがは日本一のチェッカーだと、あらためて認めた。

「またこの店に来て買い物をしよう」。
お客様にこう感じさせるのは、彼女が有する、まさに「技術」。接客も含めたレジ技術だ。
この作業には、主役はあくまでお客様が買った商品ながら、その扱いを介し、彼女の自己実現、ないし静かな主張も確かにある。

チェッカーは、お客様にとっては、買い物の最後に接する店員。
それゆえ、チェッカーの印象は店の印象にも直結しうる。

かようにも大切な役割が、消えようとしている。
「消える職業」の中に、チェッカーが真っ先に入っていることを知っている人は少なくないだろう。