女で男は変わる

この仕事に就いてまもない頃、当時の自宅からかなり離れた地にあるスーパーにかなりの頻度で仕事に出かけていたのだが、その都度わが担当する商品を買ってくれる中年男性がいた。
「おねえさんは元気がエエなあ」
との言葉と共に。

彼は、決まって夕方の5時半頃になると店に入ってきた。いつも汗の匂いがしていたから、屋外での労働をしていたのだろう。
試食品を出すと、一滴も試食皿に残らないほどきれいに食べ、
「うまい」
と、必ず商品を購入した。

私は感じていたものだ。
彼は性格が優しく、真面目で、誠実なのだろう。商品を買い物カゴに入れた後、
「ごちそうさま。お姉さん、頑張ってな」
と、いつも声がけするところからも、それはうかがえる。
ただ、見た目の雰囲気がねえ、、、。
地味なのだ。
もっとズバリ言えば、垢抜けない。
いるよね、人間性は素晴らしいのに、パッと見から受ける印象で損をしている人。
彼はまさしくそんなタイプだった。

時は流れ、やがてそのスーパーに行くこともなくなった数年後。ひょいと、そこでの仕事が入ってきた。
「あのおっちゃん、まだおるかな」
行きの電車に乗り込んだ時、ふと思いが頭をかすめた。

いた。あのおっちゃんだ!
顔立ち、身体つき、そして店に来る時間からも間違いない。
だが、、、何と言ったらいいか、、、。

「やあ、おねえさん、久しぶり。元気にしとった?」
「はい。おかげさまで。あの、、、お客さん、ずいぶん変わられましたね。どこのダンディなおじさまかと、一瞬、目を見張りました」
「ああ、それね」
彼は笑った。振り返れば、彼の笑顔を見たのも初めてだ。
「実は、昨年、嫁さんもろうてな、、、。いや、親戚のお節介バアさんが縁談を持ってきたで」
「アラァ、ご結婚されたんですね。おめでとうございます」
「ありがとう。で、この嫁が服屋に勤めているもんで、ワシの着るものにもうるそうてな。もっと明るい色のセーターを着いとか、その上着とズボンは組み合わせはおかしいとか」
「はあ」
「で、勝手にワシの着るもん見立ててきて、ワシに着せよる。ワシ、着せ替え人形や。ワッハッハ」。

衣装ばかりではない。性格も変わった。
話をしていて、そう感じた。
外見の変化は、内面にも大いなる影響を与えたのだ。

「嫁さんは店長やねん」
彼は誇らしげに語った。
「やから、夜、遅い。晩ごはんを作るのは、早よ帰るワシの役目。独身(ひとり)だった時と同じ5時半にここへ来て買い物をするんや」。
彼は、私がその日に担当していた出汁つゆを2本も買ってくれた。

いいねえ。こういうエピソード。あくまで買い手と売り手の関係だけれど、ほのぼのさせられる。

同時に、女で男は変わるケースありえる。
痛感した1日だった。