手紙を書こう。

 ね、こんなことも、たまにはあるのよ。
 とらえかたによっては、ラッキーともアンラッキーとも言える。

 今日の午後三時半。私は明日の現場である、京都府内の学園都市内の店に電話をかけた。
 明日デモンストレーションでお世話になるので、その挨拶と、担当商品の納品確認のためである。

 電話口に出た店の担当者。
「は? 明日ですか? 私は何も聞いていませんよ。そもそも商品がないし。(商品は)明日の朝に入荷するん
でしょうかねえ?」
 応答の末、私が
「仕事を手配した派遣会社に一度確かめてみましょう」
 ということになった。

 果たして、派遣会社を通じてメーカーに連絡をしたところ、メーカー側のミスと判明。
 当然、明日の現場に行っても意味がないから、仕事はキャンセルである。

 こちらのミスではないから、明日に仕事をすることによって支払われるはずのギャラに影響はなく、ラッキーと言えないこともない。
 が、明日の仕事を打診された時から心の準備をしてきたこちらの身にもなって下さいな。
 二階にあがりかけた階段を急にはずされた気分である。

 さて。
 ぽっかりとあいた一日。
 何をしよう。

 近所の鳥屋で鶏ガラを一羽50円でわけてもらい、くず野菜とぐつぐつ煮て、スープをとろうか?
 最近の忙しさにかまけて掃除をさぼっていることもあり、水回りを中心に、徹底的に磨こうか?
 買ったばかりのスニーカーで鴨川を歩き、秋の風物詩を堪能しようか?

 いずれも悪くない。

 だが、私は今、ひらめいた。
 手紙を書こう。
 とっておきの絵はがきに綴る、肉筆の便り。

 ご無沙汰している友人、知人。
 日頃からお世話になっている親戚。
 ホームに入って半分わからなくなっている父親。

 手紙を書こう。
 皆に、
「お元気ですか? お互いにがんばろうね」
 と、メッセージを送ろう。