振り込まれた

 昨年の11月に、派遣会社D社の紹介で、E代理店を通してFメーカーの仕事をしたギャラが、ようやく
本日の午前中に入金確認出来た。
 恐らくは年末年始の煩雑さに伴うシステムの関係で、二日間の遅れ。
 定期預金の残高がなければまた借金(短期キャッシング)をしなければならなかったところだ。

 来月からは法律の施行に先立つこと四ヶ月。セゾンなど大手クレジット会社では「総量規制」にのっ
とった貸金を実施する。
 正社員時代にカードを作っていた私は一円たりとも借りられなくなる。
 仕事をしていて、立替金が不足したら、どうしよう?
 店舗によってはクレジットカードを使えないところもまだまだ多い。
 その場合は一括返済のキャッシングをして何とかしのいできたけれど、それも出来なくなる。

「ほんま、困るよねえ」
 と同意しているのは、別の派遣会社に所属している仲良しマネキン。年齢は彼女の方が一回り以上
も下だし、置かれている境遇も違うが
「おセイさんこと、田辺聖子の大ファン」
 という一点が、私たちを結びつけている。
「私も、三年前かな。暮れにカズノコを三日間担当して交通費も含めると数万円の立替金がいった。
所持金がなくなり、年初めのアイスクリームを請け負った現場ではキャッシングをしてデモ商品を
買い取った。でも、もうそういうことも不可能やから、仕事依頼が来ても断らざるを得ないね」。
 そう!
 キャッシングが出来ない。
 商品買い取りの費用がない。
 仕事が出来ない。
 収入が減る。

「立替金、つまり、商品費用の買い取りのお金と交通費さえ事前に準備しておけばいいだけのこと
でしょ。取りあえずは50万くらい」
 と、また事情をよく知らない人に言われそう。
 このマネキンという仕事。余剰金を50万用意出来るような「余裕ある人」は就きませんよ!
 それに立替金が返ってくるのは、ざっと一ヶ月後。
 メーカーの締め日によっては二ヶ月後になる。

 以前にも投稿したけれど、すき焼きやステーキ、しゃぶしゃぶ、カツオのタタキ、うなぎなどの
デモンストレーションでは、一日に福沢諭吉が数枚飛んで行くことも珍しくない。
 敢えて店名を明かさないが、数年前に担当した大阪の某店におけるステーキソースのデモがそう
だった。

 そこは大手調味料メーカーのステーキソースのデモで行った店。店にすれば、単価の安いソース
など、率直なところどうでもよい。高価なステーキ肉を試食用としてマネキンにバンバン買い取っ
てもらいお客様に提供してもらう方が、よほど利益になる。
 結果
「肉をもっともっと焼いて、もっともっと試食に出さんかい」
 となる。

 お世辞にも安くはない国産サーロインステーキ。
 それでも、その風味を味わってくれるのなら、高額の立替金もまだ救われる。
 なのに、その店のお客さんときたら、一口大に切ったステーキ肉を爪楊枝の限度いっぱいに刺し、
ガガガーッと口に放り込む。そんな方が大半。
「ちょっと! そんな食べ方しないで! お肉になってくれた牛さんに失礼やないのっ」
 と、何度言いたくなったことか。
 あの「下品」などと言うありきたりの言葉ではあらわしえないイヤシイ食べっぷり。
 こんな人たちのために、こちらは昼食代を節約してまで試食のための買い取り費用にまわさなけ
ればならないのかと思うと、情けなくて、涙がでてきた。

 それでも、ギャラ欲しさに、キャッシングをしてでも仕事を請け負ってきたのだが。

 今回のように振り込みが遅れたら、もう大パニックだ。
 まあ、貯金はまだある……。