小さなスナック

 映画のタイトルにもなっているこの歌がヒットした時、私は小学校五年生の時だったか。
 歌っていたのは、四人組のバンド、パープルシャドゥズ。

 GS(グループサウンズ)全盛期だった当時。美少年のジュリー(沢田研二)を看板にしたタイガースのよ
うな華やかさもなければ、不良っぽい魅力を売物にしていたショーケン(萩原健一)を前面に押し出した
テンプターズみたいな粋さもなかったけれど、パープルシャドゥズは、親しみやすいメロディラインと、
何より叙情性あふれる歌詞によって一部に根強い人気を誇っていた。
 この映画は、彼らの最大のヒット曲をテーマに製作された、青春恋愛もの(1968年)。
 映画とともに、ミニスカート、つけまつげなど、1960年代末期の風俗もたっぷり楽しめる。

 個人的には「68年版のスローなブギにしてくれ」だと感じた。
 どちらの映画も夏で始まり、夏で終わる。
 青年が偶然に出くわした、どこか陰のある美少女に恋する展開も同じ。
 ストーリーを追うより、まずは映画の世界そのものを楽しむつくりも似ている。
 ただ、「小さなスナック」は悲劇で終わるのに、「スローなブギをしてくれ」は、少なくとも主人
公とその相手の少女にとってはハッピーエンドの結末になる、ここが違う。

 「小さなスナック」で主演を演じた藤岡弘(仮面ライダーでおなじみ。こんなにハンサムな人だった
のかと、今さらながら驚いた)の相手役、尾崎奈々の演技にわざとらしさを感じたのは、彼女と同世代
でないせい?
 それとも、あれが当時の女優の主流?
 振り返れば、同じ時期にTVドラマで大人気だった「あいつと私」に出演していた松原智恵子も、あ
のドラマの中ではわざとらしかった。
 可憐で、清純だったけれど、表情やセリフの言い回しがどこか嘘っぽくてね。
 ようやっと私の故郷、岡山にも人気が広まりつつあったバービー人形みたいな不自然さを感じたもの
だ。
 
 60年代に青春を送った人にはたまらない映画。
 そうでない人にも、60年っぽいおしゃれな雰囲気でそれなりに面白い映画。