バックヤードで試食品を作るのは

 前の続き。

 まあ、そんなわけで、4月12日の日曜日は、遅刻しそうになりながらも何とか
エージェンシーの指示時間内に現場に入店出来、
「あやうく残業というところがしなくてよくなり、よかった、よかった」
 と、あいなったのだけれど、現場の店に着くと、担当者が
「売場で煮炊きは出来ないのよ、ここは。バックヤードで作って、売場に持っ
てきてよ」
 なんて言う。

 ふうっ。
 やっぱりラ○フ系列の店やわ。
 前日の毛馬の店もラ○フで、ここでも
「売場では作らないでね」
 と言われた。

 理由は二つある。
 一つめは、お客様の安全性。正直、売場で煮炊きすると危険が伴う。小さ
な子どもが熱い鍋にさわって火傷をしたり、美味しそうな匂いにつられて鍋
をのぞきこんだとたん、お湯が跳ねて顔にかかったり。
 二つめは、売場に食べ物の匂いが充満し、衣類や雑貨にしみ込むというも
の。
 だから、バックヤードで作って売場では売るだけにしてね、となるのだ。
 ラ○フ系列は、この方式をとる店舗が多い。

 この方式のデモンストレーション。飲料やお菓子や調理でも冷たいサラダ
とか酢の物ならともかく、鍋物や汁物など、基本的に熱くないと美味しくな
い商品は、売れないよ。
 少なくとも、売場で作りながら販売する通常のデモに比べると、売上はか
なり違う。
 そりゃ、そうでしょうよ。バックヤードで作って、売場に運ぶうちに、冷
めてしまう。

 とは言え、この方式のデモは、我々マネキンにはけっこう人気がある。
「バックで作れと指示されると、ほっとする」
 と打ち明けた人もいる。
「だって、どう考えたって売上アップには不利なやり方だから、売上がかん
ばしくない時の言い訳になるし、ミネラルウォーター飲んだりして、一息つ
けるやん。売場とバックを往復するのは、エエ気晴らしになるし」。

 確かにね。

 ただねえ、敢えて店舗名は明かさないけれど、売場は整然としていても、
バックヤードはひっくり返っているところも、決して珍しくないのよ。
 掃除用のモップやバケツはそこいらに転がっているわ、棚の上はいろいろ
なシールやらカードケースやらがうずたかく積んであるわ。
 こんな散らかった場所で調理するのは、気分的にねえ!

 ひどい店舗だと、物置で試食品を作らされる。四年前にめんつゆのデモで
訪れた、大阪中部の某スーパーがそうだった。
 商品がぎっしり詰め込まれた物置。日光は全く差し込まず、薄暗い電球が
ただ一つ。人一人がやっと入れるスペースに、牛乳箱でにわか仕立ての調理
台を設置し、うどんを作る。
 作っては売場に運び、試食してもらっは、また暗い物置に戻ってしこしこ
とうどんを作り……繰り返しているうち、気が滅入ってきた。
 売上は
「高い商品なんでもしかして売上ゼロかと想っていたのに、へえ、そんなに
売れたんですか!」
 と、店の人を驚かせたほどだったが、これは、担当しためんつゆが老舗の
昆布屋の高級昆布を使っていて圧倒的に美味だったおかげである。
 並のめんつゆなら、売上は低飛行だったはずだ。

 今回の「液みそ」も、販売に不利な形式で実施されたのに、よく売れた。
 これは、味ではなく(もっともまずくはない。そこそこ)、テレビのコマー
シャル効果である。
 コマーシャルがあれだけお客様の間で受けていなかったら、売上は一桁台
だったかも。

 こういう「付加価値」がないと、「バックヤードで調理。売場では販売の
み」方式のデモは、売上的には難しいのではないかと思う。