自衛するしかない

 昨日はえらい目にあった。
 あまりに悔しく、仕事仲間たちにメールして、特に仲の良い人には電話もし
た。
「災難やったねえ。でも、私もそんな目に遭ったから。あんたも見たやろ」
 と彼女。
 確かに。

 その時、彼女は栄養ドリンクを試飲販売していた。
 栄養ドリンクの場合は、メーカーから試供品(商品と同サイズ)が店舗側に納
入されており、クーラーボックスで冷やした試供品を丸ごと一本、お客様に試
飲して頂く。
 事件があった当日の午後一時。違う商品の担当で同じ現場に入っていた私は、
彼女と昼食を共にした。
 昼休憩に入る前、彼女はクーラーボックスを閉め、きっちりとふたをした。

 休憩から帰り、私たちは立ちすくんだ。
 クーラーボックスが勝手に開けられていたのだ。
 中で冷やしていた栄養ドリンクは、一本もない。
 
 お客様の誰かが、その場にマネキンが、そして恐らくは店の従業員もいない
ことをよいことに、勝手にクーラーボックスを開け、栄養ドリンクの試供品を
取り出し、飲んだか、持って帰ったのだ。
 それを観ていた別のお客さん。
「あの人、ただで栄養ドリンクを飲んでいる(持って帰っている)。私も飲まな
いと(持って帰らないと)損だ」
 と判断したのだろう。その人もクーラーボックスに手を伸ばし、栄養ドリン
クを手にした。

 そんふうに
「私も」「私も」となり、
 ついに栄養ドリンクはなくなった。

 友人は店の担当者に訴えた。
「泥棒ですやん、こんなん。そりゃ、試供品と瓶に書いてあるけれど」

 担当者は言った。
「災難でしたねえ。ここは、大きな声では言えないけれど、お行儀の悪いお客
さんが多いんですよ。景品とか化粧品のサンプルなんか、ちょっとしたスキに
ガッとわしづかみして、持っていきます。クーラーボックスをバックに引いて
おくべきでしたねえ」。

 はあ? いちいち?
 取る方が悪いのに。

 もっとも、このようなお客さんには、社会の一般的な通念は通じまい。
 先の投稿でもあげた
「デパ地下の試食品を節約のために持ち帰るのがどうしていけないのか」
 とのたまう、自称「賢い知恵の主婦」も同じだろう。
 道徳観が麻痺していると言うより、思考パターンが違う。
 こんな人に
「お互いの立場を思いやって」
 なんて、のけんに腕押しだわなあ。

 自衛するしかない。

 サンプルをごっそり持ち去られた私も、いい勉強をした。