「楽しいこと見つけよっ」のゲーム

 仕事が入ってきた。
 久方ぶりに派遣会社Aからの紹介。フロリダ産のオレンジの試食販売。

 仲良しの仕事仲間と携帯で情報交換しているが、過半数は響きが良くない。
 皆、仕事をもらえず、今後の生活を杞憂しているのだ。

 私も朝から落ち込み、大好きなバッハの曲をBGMに気分をなだめようかとも思ったが、
全く盛り上がらず、鬱々したまま。
 そこで、敢えて、「少女パレアナ」風の「楽しいこと見つけよっ」のゲームをしてみた。

 これは、アメリカの作家エレナ・ポーター夫人の代表作「少女パレアナ」の中で紹介さ
れていた「ゲーム」である。
 牧師の父親と二人で暮らしていたパレアナ。慰問箱の中身に人形を希望したのに何の手
違いがあったのか、箱には杖が入っていた。
 パレアナは父親に言う。
「私は杖はいらない。なくても歩ける。そのことが嬉しいわ。楽しいわ」
 以後、パレアナはどんな状況の中からでも喜びを見つけ、それを楽しむことを「遊び」
と呼び、ゲーム化した。
 このゲームは、たちまち周囲の者にも伝わり、皆が喜びを見つけて楽しむことに熱中す
るようになった……。

 私が見つけた本日の喜びとは、昨日にスターバックスで飲んだジャスミン・オレンジラ
テの美味しさを思い出したこと。
 風味も香りも満点だった。
 記憶を反芻していると、自然と顔がほころぶ。

 そうしている時、仕事依頼の電話が鳴ったのだ。

 常々、人間の感性は性別や階級、国境を超えて伝播していくと思っている。
 楽しいこと、嬉しいこと、明るいこと、微笑ましいこと、気分よいことの前に不機嫌に
なる人はいない。
 美味しいものを食べたり飲んだりするのも、人を愉快にさせる。