一昨日の納豆に限らず、スムーズに売れる商品のはずが、幾つかの要因が重なって販売数が振わず、
原因と今後の販売作戦を昼の休憩時間に熟慮した結果、午後から巻き返したケースは、以前にもある。
駆け出し時代の五年前。大阪北部の某大手スーパーにP社のロールパンを担当した時も、そうだっ
た。
ロールパンをはじめ、食パンにしろ菓子パンにしろ、一般にパンは、販売がそんなに難しい商品では
ない。
購買を促す声を元気よく出し、商品の欠品がないようマメに品出ししていたら、よほどのことがない
限り、どんなマネキンでもそこそこの売上は示す。
第二次大戦後の占領軍の影響か、学校給食に「主食」としてしっかり入り込んだパンは、今や個々の
家庭においても、米と堂々と肩を並べる存在になっているのである。
この日は、しかし、何故だろう? セール品の一つとして値下げをし、チラシにも掲載し、誰もが振
り返らずにはいられないような、人目をひくPOPも売り場に設置したのに、売れなかった。
もちろん、デモンストレーションを直接担当したこちらが、職業上の義務から当然の行為とは言え、
踏ん張ったことは、言うまでもない。
昼の休憩時間。私は、社員食堂で溜め息をつきつき、買ってきた薄っぺらなサンドイッチを口に運ん
でいた。
へにゃへにゃのパンに、鮮度の失われたハムとしなびたレタスをはさんだだけのサンドイッチ。
だが、ここで、私は閃いたのだ。
「これは、使える!」
大阪に長年住んでいた私にはわかる。
大阪の下町の主婦の経済観念は、驚くほど合理的。食事に例をとると、いかに速く、いかに安く、
いかに美味しい一品を作ることが出来るか。
本来は捨てる部位のはずだったものを、さりげなく活用する人も多いはずだ。
「前日に残ったポテトサラダやウィンナーをはさんで食べれば、あっと言う間に、美味しくてバラン
スのとれた一品が。冷蔵庫のお掃除にもなります」。
午後から、試食を薦めながら、しつこいまでに繰り返した。
よく売れた。
一昨日の納豆の場合も、これと似ているだろう。
まきかえし