「理」と「情」のバランス

 奈良から始まり、高槻で終った六日連続勤務が終わった。
 
 さすがにきつい。腰はパンパン。膝はガクガク。
 しかも、昨夜は早く休めばよいものを、遅くまで邦画のレンタルDVDを観ていたため、今朝になっても、腰の痛みとだるさ、膝の異和感がとれていない。

 さて。

 六日連続勤務の初日は奈良。担当はペットフード。
 一日中雨がふりしきっていたし、ライバル?)のM社のマネキンも来ていたこと
もあってか、いつもにも増して売上は悪い。
 そもそも、お客さんが少な過ぎるわな。

 それにもかかわらず、今回の手応えは、売上数はともかく、触感的には大きな
ものだった。
 と言うのは、私は、知ったのだ。
 食品に比べると難しいペットフードの販売に、なるほど専門知識に裏打ちされ
た「理」は必要だけれど、そればかりになってもいけないと。
 ズバリ、「理詰め」は強いようで、弱いのだ。
 少なくとも、それだけでは、お客様の反感を確実に買う。

 薄々気づいてはいた。
 昨年秋、京都は物集女のホームセンターでデモした時のこと。

 飼い犬のチワワで命を救われたと大真面目におっしゃったお客様がおられた。


「いま振り返るに更年期障害やったんかねえ。とにかく、毎日、家にこもって泣いてばかりいた。心身、どちらの面でも自分に自信が持てなくて」。


 そんなお客様のもとに、チワワの女の子がやってきた。ご長男一家がペット厳重禁止のマンションに引っ越すこととなり、それまでアパートで隠れて飼ってい
たチワワをてばなさざるを得なくなったのだ。
 チワワは、一軒家に住むお客様のもとにやってきた。

「犬だから散歩に連れていかねばならない」
 と、お客様は、不調の身体にムチ打つように、外に出た。
 三日目。はたと気づいた。
「昨日も今日も通じがあった」。
 お客様は、時に十日も続く頑固な便秘に悩んでいた。

 よくなったのは、通じだけではない。
 チワワが来て、一ヶ月ほど経った頃、ご主人に言われた。
「お前、最近、頭痛を訴えんな」。
 便秘に負けないくらい、お客様は頭痛持ちだったのだ。

 お客様は私におっしゃった。
「チワワのこの子のおかげで私は健康を取り戻した。私の命の恩人やわ」

 この話を、暇に任せて当日の現場に来られるお客様にお話したら、
「ああ、わかる。わかる。私も似たようなもんやったから」
 との返事がかえってきた。
 おまけに
「あんた、お話をきちんとしはるなあ。そんなあんたがすすめるフードなら、
安心や。一度、試してみるわ」。

 つまり、「情」ばかりではいけないけれど「理」ばかりでもいけないのだ。

 簡単なようで、これは難しい。

 ベテランとかカリスマとか呼ばれる営業マンは、ここいらあたりのバラン
スは、よくわかっている。