大阪ハムレット

 こういう映画を観ると、生きることが、ある意味とても楽しくなる。
 
 不況がなんだ!
 リストラがなんだ!
 貧乏がなんだ!
 人の噂がなんだ!
 失恋がなんだ!
 
 ついでに、
 世間一般にはびこる「常識」ちゅうもんがなんだ!
 要は幸せやったらええねん!
 自分も周りの人たちも笑って生きていられたら、それで大満足やん!

 胸をはって、こう宣言したくなる。
 
 「大阪ハムレット」。大阪の下町を舞台にした人情劇。
 夫亡き後、昼は病院で付添婦を、夜はスナックでホステスをして、三人の息子
を育てる久保房子が主人公。
 働き者の「肝っ玉母ちゃん」は、次男がツッパりになろうが、三男が「女の子
になりたい」宣言をしようが、どーんと構え、良いも悪いも一切合切引き受け、
ガハハと笑い飛ばして「現在」を生きる。
 そんな房子の元へ、亡夫の弟と名乗る、風采の上がらない中年男が転がりこん
でくる。
 息子たちは戸惑いながらも、おのおの悩みを抱え、そちらに囚われていたため、
ついナアナアでこの「おっちゃん」と暮らす。
 そんなある日、房子からおっちゃんの子どもを身ごもったと、聞かされる……。

 常識的な視点で観れば、非常に問題アリの久保家。
 もっとも、何もない家庭などあり得ない。
 家族と言えど、しょせんは人と人の集まりなのだから。

 人の生は、ぶちまけた話、失敗と後悔の連続である。
 悲しいかな、それを修復し終わらないうちに、別の世界からお迎えが来るのが、自然の掟。
 そうと踏まえつつ、様々なものを抱えた人がそれぞれの道を切り開かんと日々
つとめる姿は、素晴らしい。美しい。
 
 主演の松坂慶子
 きれいなだけの大根役者という、かつてのイメージを完全に払拭。
 助演の岸部一徳(タイガースのサリー)も熱演。
 本当にいい役者になったと思う。