試食販売と映画製作

 イギリスのハードボイルド作家ジェームス・ハドリー・チェイスのデビュー作「ミス・ブランデッシの
蘭」を映画化した「傷だらけの挽歌」を観た。
 レビューは後ほどアップするとして、もう言い切ってしまおう。
 これは、原作もたいへん良く出来ているのだが、映画は更にそれを上回っている。
 暴力描写やいささか過剰気味のドンドンパチパチ場面はともかく、そのスピード感、小気味良いまでのリズム、動と静のメリハリ。
 冒頭から最後まで観客をあきさせない。
 その意味で間違いなく傑作である。

 何故か?
 キャストが素晴らしいのだ。
 誘拐された富豪令嬢バーバラ・ブランデッシ役のキム・ダービー、彼女に一方的に惚れる極悪ギャング、スリム役のスコット・ウィルソンをはじめ、どの役者たちも、まさしく「演技」でありながら「演技」以上の存在感をしめしていた。
 その役者たちの一挙一動を緻密にとらえ、フィルムに刻むカメラワークの見事さ。
 背後に流れる音楽の的確さ。
 脚本も、原作に忠実でありながら、削るところは削り、加えるところは加え、平易簡潔にして、余韻のあるものにしている。
 もちろん、これらを総指揮した監督の力量はたいしたものだ。

 ここで思ったね。
 これは、私たち試食販売の仕事にもあてはまると。
 
 商品を売り出す場合、まずは、商品ありき(映画で言うなら、原作であり企画)。
 次に、その商品を世に知らしめるための手段。専門用語を使わせて頂くなら、SP(セールスプロモー
ション)というやつだ。いつ、どこで、どんな方法で、どのような人たちに商品の良さをアピールして
いくか(脚本)。
 三に、そのプロモーションを引き立たせるための、店頭DVD、ポスター、小道具(音楽であり舞台美
術)。
 四に、商品を消費者に向かって直接PRする宣伝員、つまりマネキン(俳優)。
 五に、最終的にお客様に商品を印象づける視覚的要素(陳列)。

 商品がヒットするには、最初の段階である商品そのものの質が優れていることが絶対条件だが、それに続く四つの要素も大きく作用する。
 時に、この四要素が非常に優れている場合(特に二のプロモーション=脚本や四の直接PR=俳優)は、
その商品は本来の価値以上の輝きを放つことがある。
 ホラ、しょーもない歌が大ヒットする現象、あるでしょ。
 あれと同じ。

 こう発想したら、再びがぜんこの仕事が面白くなってきた。
 試食販売の仕事は共同作業。
 我々マネキンは、映画の世界で言う俳優なのだ。