アーティストになるな

 昨日は大阪で派遣会社の研修。
 
 研修と言っても、接客マナーの初歩をおさらいしただけで、後は仕事上の悩みや提案などを述べ合
う内容だったから、まあ、ミーティングね。

 あらためて、マネキンって、個性の強い人が多いなと感じてしまった。
 基本的に一人でする仕事のゆえん?

 個性を前面に出すことは悪いことではない。
 Aさんは元気の良さで、Bさんは料理のうまさで、Cさんは押しの強さで、Dさんは柔らかい応対
で、Eさんは的確な知識と情報で、商品を宣伝する。
 それぞれのやり方があってよい。
 
 ここいらあたり、芸人に似ている。
 ほら、同じ金田一耕助役でも、石坂浩二古谷一行が演じたのは雰囲気が異なっているし、稲垣吾
郎やトヨエツや中井貴一渥美清が演じたのは、またひと味もふた味も違うよね。
 歌でも、同じ「マイ・ウェイ」が、歌う歌手によって表情を変えたりする。
 あれと同じ。

 ただ、私自身、戒めていることがある。
 それは
「アーティストになるな」
 と言うこと。

 俳優でも歌手でもタレントでも、けっこういる。
「オレは才能がある。そんじょそこらの凡庸な人間とは違う。だから何をやっても許される」
 と、公言し、実際にそのように振る舞うタイプ。
 一人だけ例をあげよう。
 故横山やすしだ。

 彼は確かに才能があった。
 人一倍の努力家でもあった(仕事に関しては)。
 漫才の能力という点ではも相棒の西川きよしよりずっと上だったのではないか。

 でもねー、やっさんくらいに才能があって努力家の漫才師は他にもいたのよ。たまたま芽が出な
かっただけなのかも知れない。
 やっさんが世に出たということは、自身の才覚もさることながら、そのきっかけを作ってくれたり、
後押しをしてくれる人がいたわけで、それを忘れて
「オレは天下のやっさんやぞ」
 と、傲岸不遜に振る舞うのは、どんなものか。

 マネキンにもいるのだ。
「私はよく売るのよ」
西友に行くとね、店長の方から私に頭を下げるの。だって西友で私、ハムのギフト、売りまくって
いるもの」
「私はカリスママネキン。あんたたちみたいな普通のマネキンとは違うんだから」

 こういうマネキンは、同業者にも、店舗側にも、言葉遣いからして横柄な態度をとっており、それ
が接客にも反映されている。
「この私から商品を買わないなんて、あんた、どういうつもり?」

 一番大切なのは、同業者、店舗従業員、お客様との「共感性」。
「まあ、あなたもそうなん? 私もやねん」
 と感じ合える親しみ。
 目先の売上は少しぐらい悪くとも、最終的に商売の神はこちらに微笑む。

 なぜって、こういうマネキンは、周りの人が助けてくれるからだ。
「おねえさん、がんばっとるなあ。ここは、こうしたらもっと段取りがよくなるよ」
 と、ベテラン同業者は教えてくれるし、店舗従業員もいっしょに声だししたり、馴染みのお客さん

「あちらで試食していますよ。食べるだけでいいので食べて行って」
 と、誘導してくれる。
 何よりお客さんが
「応援しているよ」
 と言って下さる。

 ここで思い出すのは、これも亡き阿久悠のエッセイの一文。
 人気番組「スター誕生」でグランプリをとった森昌子をデビューさせるにあたり、阿久悠はずい
ぶん悩んだそうな。
「歌はうまいんだけれど、ルックスがなあ。アイドル向きじゃない」
 しかし、デビュー前の森昌子に寄せられたファンレターを読んでいるうち、方向性が見えてきた
と言う。
「僕も私もあなたも、みんなでもり立てていってアイドルにしてあげよう。そういうアイドルがい
てもよいのではないか」

 これ、これ、これなんですよ。

 なるなら、アイドル。
「私はこんなに歌(販売)がうまいのよ。実力があるのよ」
 みたいな態度をチラチラさせるアーティストになってはいけない。
 実際は、歌(販売)がうまくて、実力があってもね。