ヴィーナスさまさま

 月曜日のコノミヤ放出店での桃屋の塩だしつゆのデモ。
 好成績だったのは、メニューと、もう一つ、店内に流れていたBGMのおかげ。

 BGMは主に70年代後半から80年代にかけての洋楽のインストゥルメンタル。ボーカルを抜き、
サウンド自体もポップ調にアレンジされているので、本来はヒュンヒュンうなるギターとガンガン
鳴るドラムの間をシャウトしまくるギンギンのボーカルが駆け抜けるといったスタイルの音楽(ヘヴィ
メタ)でも、サラリと聴ける。
 いいね、こういうの。
 リズムに乗って作業能率もアップするし、メロディだけだから、英語の歌詞になじめない人でも
無理がない。
 私もおおいにリラックスし、楽しみながら、仕事を続けることができた。

 ただ、ちょっとやり過ぎた。
 この曲が流れてきた時点で、それまで少しずつ動いていた手足や腰が、一気に暴走した。
 
 http://www.youtube.com/watch?v=O5-54ImR-t4

 気がついたら、試食品を載せたトレイを持ったまま、デモテーブルのそばで、踊っていたんだよ
ね。身体が勝手に動いていたのだ。

 「よっ、おねえさん、乗っとるやんか」
 耳元で響いた野太い声で、はっと我にかえった。
 頭に手ぬぐいを巻いた飲み屋や大衆食堂の大将みたいなおっさんが、立っていた。
「ええなあ。楽しゅうて。楽しいことはええこっちゃ。生きとるんなら、楽しまななあ」
 おっさんは
「ノリの良さと楽しさに敬服して」
 と、つゆをポーンとワンケースも買っていってくれた。
「商売で使うから、ええねん。今日は一割引やし」

 ヴィーナスさまさま。

 ちなみにこの曲。元はオランダのショッキング・ブルーというバンドが1968年にヒットさせた
もの。それを女性三人組のバナナラマが80年代にリバイバルヒットさせたのだ。
 そのことに気をよくし、ショッキング・ブルーも再結成されたのだけれど、ボーカリストの激変
ぶりに絶句した(まさにジュリーといい勝負。否! あれよりもっとひどい)。

 昔の栄光をもう一度と思ったのだろう。
 よせばよかったのに。
 人生、ひと花咲かせたら、ええやん。
 花は一度開いて、散った後は風に乗り、いずこへ。
 でも、見た者の記憶には永遠に残るやん。