ともに粉雪が横殴りに降りしきり、冷気が全身を刺す日だった。
この店にも「らくらくホイップ」(トーラク)の宣伝販売員がきていた。
14日のバレンタインデイを意識してのデモ実施か?
彼女は、二十代前半と見受けられる、目の大きな可愛い女性。
7日と8日に私が同社の同商品をデモンストレーションした時と同じく、
クラッカーの上に生クリームを乗せて、お客様に提供していた。
「厳しいですね」
昼休みに入る前、バックヤードで顔を会わせた彼女が一言。
わかる。
この店のお客様はおとなしい方が多い。
私がデモするキムチ鍋ですら、試食を敬遠されるのだもの(寒い日なのにね)。
まして、らくらくホイップのような「冷たい」食べ物とくれば!
しかも、試食してもらわないとなかなか売れない。
「簡単な割りには味はまあまあね」
こう実感していただいて、お客様が財布を開く商品だ。
「まあ、ものは考えようですかね。
食べるだけが目当てで寄ってくるお客さんがほとんどの店もありますもん」
確かに。
ここで彼女が生クリームを乗せているクラッカーを見て、おやっと感じた。
リッツなのだ。
所属している派遣会社の指示なのだろうか。
だとしても、うーん、リッツはねえ!
塩分が「らくらくホイップ」の控えめな甘味を消してしまいはしないか?
私も、先だっての同社のデモで、
生クリームの土台となるクラッカーの選択には悩んだ。
当初はノンソルトの「クラコット」(写真)を使用していたのだけれど、
うまく割れない。
そこで、最初から正方形になっているN社のノンソルトクラッカーに変えた。
と、「らくらくホイップ」の売上自体に変化が生じた。
ぴたりと売れなくなったのだ。
「ノンソルトだからしょっぱくないはずなのに」
首を傾げつつ、自分で一枚食べてみて、わかった。
ノンソルトでも塩気はある。
この塩気が生クリームの甘味にまさり、
せっかくのやわらかな風味を殺してしまっている。
クラコットの塩気はほとんど気づかない程度のもの。
生クリームはしっかり自己主張出来る。
「ははあ。なるほど……」
使用クラッカーを再びクラコットに戻したのは、言うまでもない。
彼女もリッツには疑問を感じたのだろう。
午後からのデモでは使用クラッカーを変えていた。
生クリームとクラッカーの相性。
この図式は、他のデモ、
例えば、うどんとだしの相性にも当てはまる。