試食販売の現場で見たネグレクト(育児放棄)

今でも鮮明に覚えている。私がデモンストレーターになって二年目の冬、うどんの宣伝販売で入った店に、こんな子どもがいたこと。
年齢は4歳か5歳。何度も試食にやって来る。それも、こちらが他のお客さんへの接客に追われているスキを狙い、さっと試食カップに入ったうどんを取って行くのだ。
その素早さときたら!
当時はまだアレルギー対応にやかましくなかったこともあり、我々も子どもが一人で試食に来ても食べてもらっていたのだが、それにしても限度がある。
何回目かに来た時、私は尋ねた。
「ボク、パパかママは?」
子どもは何杯目かの試食用うどんをガツガツ食べながら、顔も上げずにボソリと答えた。
「パパ、おれへん。ママ、ゲーセン(ゲームセンターの略)にいてはる」。
おわかりだろうか。彼の母親は小学校にも上がっていない息子と共に恐らくはゲーム目的で来店し、店のゲームセンターに着くや、息子はほっぽり出し、一人マシンに向かっていたのだ。

ここで、
「んまぁ、何ちゅう親や!」
と母親を糾弾しても何も解決しないと思う。
恐らくは、彼女自身もそういう育てられ方をしてきた可能性が高いから。
「私も親に放っておかれた。でも私はひとりでに大きくなった。子どもなんて、そんなもんや」。
こう考えているのではないか。
間違ってもネグレクト(育児放棄)をしているとは思っていないだろう。

ネグレクトをも含む子どもへの虐待の根の深さがここにある。
この負の連鎖を断ち切るには教育(知識を詰め込む教育ではなく、人間として、そして生活者として、最も基本的な事柄を教える教育)しかないと、個人的に感じている。

うどんを何度も試食に来たあの子ども。今、どうしているだろう。
高校生くらいになっているはずだが、、、。