迷ったら、勇気を持って、元の道を引き返す。

友ヶ島に関するネタを続ける。

友ヶ島のメイン島である沖ノ島西端から見える虎島。石を積み上げて作られた堤防で繋がっているが、現在では破損しているためここを渡るのは非常に危険とされている。
それでも、「危険」ゆえのスリルと冒険と背徳心を味わいたく、潮が引いている時を狙って渡る人もいる。その場合、虎島であまり時間を使いすぎるとやがて潮が満ちて堤防は水没し、再び潮が引くまで虎島から帰れなくなる。最悪、虎島で一泊することにもなりかねない、、、。
前回、こう書いた。

そうなったとしても、怖い動物がいるわけではないし、雨露しのげる洞窟もあるので、保温と水分の問題さえクリア出来たら命に差し障りはない。差し障りはないけれど、無人島の果ての闇の中で過ごすのは恐怖を伴う。
こうも書いた。

真剣にシュミレーションして欲しい。
灯のない無人島で、図らずも一晩を過ごすこととなった。
しかも、たった一人で!
あなたの心身はどんな反応を示し、結果、あなたはどんな行動を起こすだろうか?

この状況を想像しながら私が思い出したのは、数年前に京都の大文字山を一人登山していて、迷子になった時のこと。
大文字山に全く慣れていないのに、その日に出会った親切な登山者が
「そこへ行くのなら、こう行った方が速いよ」
と教えてくれた近道ルートを選んだのが原因だった。

あれ、おかしいなと思い始めたのは、いつ頃からか。
そう感じつつ、いつかあの人が言った目印が見えてくるのだろうと、前へ前へ進んだ。

行けども行けども、うっそうと茂った草むらと木々ばかりが続く。
突如、大きな鳥が舞い降りてきて、道を長い尻尾で撫でながら、下におりていく。
キジだった。
「キジさん、こんにちは」
こう挨拶したのは、愛嬌からではない。
胸の中で膨らみ始めた恐怖心からだった。

やがて、「道」が消えた。道とも言えない線のように細い細い地肌が生い茂った草の中を走るだけ。
迷子になったな。
悟った瞬間、恐怖心は塊(かたまり)となって胸を飛び出し、ワァーッと我が身に降りかかってきた。
怖い。誰もいないよ。山の中で一人だよ。
ここはとこなの? 怖い、怖いよ。

「山だもの。降りればいい。とにかく下へ下へ」。
こう判断し、何はともあれ、下る!下る!
道でない道。おまけに坂道も、尻で降りる!降りる!

草木を握った両手に傷をこしらえ、血を滲ませながら、下る下る。
ある地点まで降りた地点で人の背中を見た時、ホッとした。本気で助かったとすら思った。

無人島の虎島で望まぬ一泊を過ごさざるを得なくなった時の心理も、これに近いものがあるだろう。

なお! 後に知ったのだけれど、山で迷子になったら、初心者ほど下れ下れと志す。でも、これは大きな間違いで、正統は、「勇気を持って元の道を引き返す」ことなんだそうな。

迷ったら勇気を持って引き返す。
ビジネスの場でも、それが認められるシーンがある。