駅(STATION)

 昨日は九州南部でも交通に差し障りが出るほどの雪が降ったと言う。
 一夜明けた今日。積雪は全国に広がったもよう。
 寒気が骨肉に染み入る。
 ストーブやこたつから離れられない人も多いのではないか。

 こんな日は、無理に動き回らず最低限のことだけやって、後は熱いお茶でも
すすりながら(人によっては熱燗をちびちびやりながら)、しんみりと心に染み
る映画を観よう。
 例えば、健さん倍賞千恵子がコンビを組んだ作品の中では最高傑作の呼び
名も高い「駅(STATION)」。
 元オリンピック射撃選手でもある刑事、英次(高倉健)を主人公とし、駅を舞
台に、彼をとりまく女性たちとの出会いと別れ、及びそれぞれの人生を、三部
構成で描いた人情ものである。

 第一部。直子。メキシコ五輪に射撃選手として出場することになった、英次
の毎日は多忙を極めていた。それが一因で妻の直子とも険悪になり、一人息子
を直子に託して離婚することに。
 駅で別れる二人。動き出した汽車の窓から、瞳に涙を浮かべつつ敢えて笑顔
をこしらえ、警官の敬礼で英次にさよならを告げる直子(いしだあゆみ)の姿に
観客は泣けてくる。
 敬礼は、刑事としての英次の今後を祈る、直子の精一杯の、そして最後の愛
情表現だった。

 第二部。すず子。連続強姦殺人事件の加害者として浮上した吉松五郎。両親
は既に亡く、町の食堂で働く妹のすず子と二人で暮らしている。警察は五郎を
逮捕せんと、このすず子(烏丸せつこ)を徹底的にマークする。
 恋人(宇崎竜童)の子を堕胎したすず子。彼女の愛は本物でも恋人にとってす
ず子はただの遊び相手。警察と密かに通じた恋人の策略で、すず子は結果的に
兄が捕縛されるきっかけを作ってしまう。
 誰もいない深夜の駅の線路で、兄に抱きつきながら泣き崩れるすず子。
 月の弱々しい光が二人をとらえた瞬間、パトカーの鋭い閃光が。

 第三部。桐子。年の瀬、帰郷しようにも故郷の島に向かう船が欠航で、町に
足止めをくった英次。ふと入った飲み屋の女将、桐子(倍賞千恵子)の憂いある
表情に惹かれる。
 テレビの歌謡ショーから流れてきた八代亜紀の「舟唄」に合わせ、口ずさむ
桐子。二人は大晦日を共に過ごし、結ばれる。
 初詣に出かけた二人。楽しそうな桐子を陰から見つめる謎の男。その男こそ、
英次のかつての上司を射殺して逃走中の指名手配犯だった……。

 ストーリー、俳優たちの演技もさることながら、情景描写が素晴らしい。
 担当カメラマンの非凡なセンスが映画に深みを与えている。

 尚、個人的には、高倉・倍賞の黄金コンビの最高傑作は「遥かなる山の呼び
声」だと思っている。
 これは、まさに個人の独断と偏見。
 皆さんはどうですか?