人を動かすのは「力」ではなく、「共感」であり「連帯感」。

「クレームには優しさで返す」の議題をもう少し続けよう。

かつて日本一クレーマーが多いと言われ、怖い筋の方々も幅を聞かせていた、東京は歌舞伎町にある某ビジネスホテルの支配人に任命されて果断にも「改革」に取り組んでいった三輪康子氏だが、幾度か危ない場面に遭遇したことがあるそうな。

支配人として就任まもなく、「どうして俺を泊めねえんだ?」とスゴんできた、スキンヘッドの大男がいた。一目でヤクザとわかる。
その関係者の宿泊やホテル専用駐車場への違法駐車はガンとして認めないと決めていた三輪氏は穏便に返した。
「申し訳ございませんが、お泊めするわけにはいきません」。
すると、男はやおら白鞘を取り出し、すっと刀を抜いたのである。
「おい、オンナ、ぶった斬るぞ!」
三輪氏は、かまわず、男の方へ一歩踏み出す。
「お客様は私を殺せません」
男は一瞬たじろぐ(三輪氏の対応が予想外だったからだろう)。
「おい、オンナ、怖くないのか?」
「はい。お客様は私を殺せません」
こういう問答が続いているうち、面白いではないか、刀を手にした男の方が後ずさりを始めたのだ。

このエピソードは、暴力や権力などの「力」では、本当の意味で人を動かすことは出来ないということを三輪氏は知っていた、そのあらわれの一つだと思う。

力を振りかざすと、振りかざされた人は確かに従う。でも、それは心からのものではない。振りかざされた力に対する恐怖から表向き態度を繕っているだけだ。
人を真実動かすのは「力」ではない。「共感」であり「連帯感」だ。これは、やなせたかしが作詞した童謡「手のひらに太陽を」の世界にも通じる。

ついでながら、私たちデモンストレーター業界でも、販売成績が優れている人は間違いなくこの「共感」をたくさん得ることが出来る人である。
これについては、機会をあらため、詳細に述べたい。