「津軽」

f:id:ellenyannyan:20230205202332j:image

f:id:ellenyannyan:20230205202341j:image

f:id:ellenyannyan:20230205202407j:image

津軽」(太宰治 作)


紀行文風にてエッセイ風、さらには自叙伝風ともとれる小説。
個人的に、太宰治の作品の中では、これが1番好き。

 


(あらすじ)
昭和19年5月。作家である私(主人公。太宰自身がモデル)は、出版社より、私の故郷でもある津軽のことを書いて欲しいと依頼を受け、旅に出る。実は、私自身も、命あるうちに生まれた地を隅々まで見ておきたくなったのだ、、、なぜなら、津軽に二十年間いたにも関わらず、私が知る「津軽」は極めて狭い範囲に限られていたから。


行く先々で、大地主であった実家に仕えた人たち、幼馴染や同級生、家族、親戚と久々に会い、酒を酌み交わし、思い出話に花を咲かせ、互いの「現在」を語り合ったりして交流するうち、私は次第に「津軽人」としての自分を取り戻し、いろいろと汚点もあった過去をも含めたアイデンティティをあらためて認識するのだった、、、。

 


最終章で、私が幼児だった頃の子守、たけに再会するシーンは圧巻。
「何がどうなってもいいんだ、というような全く無憂無風の状態である(略)私はこの時、生まれて初めて心のを体験した(略)」。


数多くの女性と関係を結び、そのいずれにも幸福を与えることが出来なかった太宰だが、それは、もしかすると、たけのような女性に巡り会わなかったからかも知れないね。


なお、本文に先立って紹介される口絵と書も太宰自身の手による。
この小説でも随所でうかがえる、太宰文学特有の道化師的なユーモアとサービス精神は、ここからも感じ取れないかしら。