買物依存症から抜け出した仲間

イメージ 1

 
 一昨年くらいに話題となったアメリカ映画「お買い物中毒な私」をDVDで観た。
 考えさせられる内容だった。

 
 ストレス解消のため、ついつい支払い能力を超えた買物をしてしまう、主人公レベッカ
部屋の中には、買っただけで一度も身につけたことのない洋服やハンドバッグ、靴がごろ
ごろ。
 そんな彼女が、何の因果か経済誌の編集部に雇われることに。
 経済のケの字もわからないレベッカだったが、それがかえって「読者にわかりやすい記
事を書く」と評価され、彼女のコラムは人気となる。
 そうこうしているうちにも、カード未払いの件で、借金取りは執拗に追ってくる……。

 
 実は、親しい仕事仲間にも似た体験をした人がいる。
 定年まで大手企業で事務員をしていた彼女。
「女性は、大学を出たら二、三年、社会勉強のつもりでオツトメしていただいて、それから
は、かわいいお嫁さんになって旦那と子どもの為に生きてください」と、半ば公然と告げ
る企業人事担当者が珍しくなかった時代に就職し、別にその流れに乗ったわけではないけれ
ど、何となく自分もそうなるのかなあと感じていた。
 
 現実には、縁がなく、ずっと独身。
「表向きは有名メーカーの花のOLに見えたかも知れない。でも、あの世界で女性が三十歳を過ぎて未婚のままいるのは、当時は精神的
にかなキツイものでね。現在と違って、女性にやりがいのある仕事とか、まして役職
なんて想像も出来なかった頃だから、来る日も来る日も同じことの繰り返し。そのくせ給料は
年功序列制であがっていくから、周囲からは疎まれて」
 気がついたら、買物でストレスを発散させるようになっていたと語る。
 
 問題は、彼女が定年退職をして収入が激減しても(アルバイトには出ていた)、無計画で野
放図な買物を続けたことだ。
 アルバイト収入は知れているから、買物は退職金や預金を取り崩すこととなり、たちまち
底をついた。
「定年まで大企業にいたのなら、買物のし過ぎで預金はあまりなかったにしろ、退職金だけ
でも相応の金額があっただろうに」
 と訝った私だが、詳細を聴いて納得した。
 考えられます? 普段に(繰り返す。普段に、である)使うバッグに50万円もかけるなんて。私など、50万円の十分の一の5万円どころか、
百分の一の5000円にもほど遠い、700円の、しかも中古バッグで
すよ。コーヒーの試飲の仕事で訪れたイズミヤ大久保店内のリサイクルショップで見つけ、容量がたっぷりな上に、色も型もベーシックで、かつ頑丈に作ってあるのが気に入って購入
したのだ(頻繁に持ち歩くにはこういうのがいい)。
 バッグ一つにこんな具合なら、あとは容易に想像がつく。
 有金すべてを無くした彼女はカードローンに手を出し、借金はあっと言う間に膨らむ。
 運悪いことにアルバイト先も不況のあおりを受けて倒産してしまった。

「この仕事に就いたのは、アルバイト先の近くにあったスーパーに毎週末に来ていたマネキ
ンのおばさんの口聞き。よく話して親しくなっていた。私がアルバイト先の会社がもうすぐ
終了するんよと、ある日話したら、おばさんが、うちの派遣会社の社長に話すからこちらへ
おいでよと言ってくれて。販売経験はなかったけれど、働かないといけない。年を考えたら、
他にそう職があるとも思えないし」
 マネキン初仕事はお好み焼き粉の試食販売。
「社長がレシピを家にファクスしてきて、ここのメーカーは細かいからこの通りに作ってね、
レシピに沿って作れば簡単と。でも、私にはそうは思えなかったから一度作ってみると、悲
惨も悲惨。とても人に食べてもらう出来上がりと違う。無理もない。私は、調理なんてした
ことがなかったもの。母親が生きていた時は上げ膳据え膳。亡くなってからは、外食と出来
合いの総菜ばかり。火加減もわからないし、キャベツを切るのからしてダメ。それでも、仕
事を受けたからには、一応は人が食べられるお好み焼きを焼いて試食に出さないといけない」
 二度、三度、と彼女は練習した。
 五度目。まあまあ及第点かなといった試食品が出来た。
「その時なんやね。しんどさと裏合わせではあっても心の底からスカッ
とする満足を覚えたのは。数十万とするブランドブーツやアクセサ
リーを買う時でも味わえなかったほどの、何とも説明がつきがたい、イイ気持ち。充実感とあらわしてもいいかも知れない。おかしいでしょ? 
たかだかお好み焼き一つのことで。だけど、本当だったのよ」

 現在、マネキンの仕事をするかたわら、駅構内での茶葉の販売をして、彼女は借金を返済
していっている。
「高価な買物は一切していない、というより、出来なくなったし、もう興味もない」。
 オフの日はもっぱら料理の勉強。それも、子どもの頃にお母さんが食べさせてくれた、懐
かしのオムライスやメンチカツ、コロッケなど。簡単なようで、美味しく作るには、それな
りの技術(コツ)が要求される。
 そのぶん、うまく作れた時は嬉しいし、「どうやったら?」と探求し、創意工夫を重ねるの
が、また楽しい。
「振り返ったら、こんなに幸せな時って、私にはなかった気がする。全身をピカピカに飾り立てていても、どこか満たされなかった。
から、買っても、買っても、まだ物足りなくて買う」

 小さな幸福を見つけることこそ、中毒(依存症)から抜け出す道。
 映画のレベッカも、愛する人を見つけ、両親や友人たちとの絆を取り戻すと、買物はしな
くなったね。

 写真は、イズミヤ伏見店近くにあった、廃物電車を利用した地域の集会所。
 いらなくなったモノもこうして再利用してあげると、モノを作っ
た人も作りがいがあるし、不要な大量消費もなくなるだろう。