
疲れた。
身体は、コーヒーに浮かべたクリームみたいに溶けてなくなってしまいそうなのに、
精神(こころ)は、雷に打たれた馬みたいにいきり立っている。
そんな一日だった。
九月三日。
メインとしている派遣会社の仕事がなかったため、他の派遣会社数社に電話をかけまくり、
やっと貰えた、オーマイ(日本製粉)の冷凍パスタのデモ。
何度も訪れ、店の勝手やお客様の気質は知っている。
本来なら、調理をするわけではなし、リラックスして仕事が出来るはずだった。
朝。台風による列車遅滞のリスクも想定し、自宅を早めに出発。
駅について数分も経たないうちに、アナウンスが流れてきた。
いただいております」
すぐに派遣会社の緊急連絡先に電話。
話し合いの末、取りあえず列車が通じている野洲まで向かうことにした。
電話を切った直後に、新快速長浜行きに乗車。
長浜行きは車中で野洲行きに変更となった。
ふと考えた。
琵琶湖がある滋賀県。強風は避けられない。列車も運行をとりやめるだろう。
でも、内陸部だったら?
雪王国北海道でも、内陸部の積雪量はそうでもないと言うじゃないの。
風の影響も、それと同じことじゃないかな。
頭の中で考えをめぐらせているうち、またも車内アナウンス。
これで決心がついた。
どちらも速度を落として運行している。
正直、イライラ。
決められた時間に入店出来なかったら、例え天災が原因であろうと、遅れた時間のぶんだけ
マネキンが残業しないといけない。
とは言え、イライラしてもなー。
しゃーないことはしゃーないのだ。
結局、店には十一時二十分に着いた。
指定では十二時から仕事開始となる。
本来なら、八時まで業務を遂行しないといけないのだけれど、台風のためということで、
七時までとなった。
これがよかった。
本来通りに八時までデモをしていたら、家に帰れないところだった。
仕事を終え、JR南彦根駅に。
相変わらず、野洲から長浜間は普通。電車はストップしているのだ。
「米原までタクシーで出て、そこから新幹線で京都にお帰りに
なっては?」
駅員は薦めた。
新幹線? 米原から京都まで3300円するのよ。冗談じゃない。
けっきょく、行きと同じ近江鉄道ルートを利用することに。
近江鉄道の貴生川行きは七時五十八分が最終。
救われた!
八時まで仕事をしていたら立ち往生だった。
遅れが十数分から二十数分。
自宅に帰った時には正午を過ぎていた。
途中、携帯で何度も路線情報をチェックした。
中にはガセネタもあり、余計に不安をあおった。
「明日には久米田(大阪南部)に行かにゃならんのに」
炊飯器やら鍋やら、用意をして、風呂に入って床に着いた。
空が完全に台風色ね。
わが心も、こんな色だった。