かけひき

 風邪が治り切らないままだったせい?
 たった二日間現場に立っただけなのに、左足が痙攣しまくり。
 「冷え」が原因ね。
 店舗内って、けっこう寒い。
 その中で立ちっぱなしで仕事をするのは、五十路の身にはこたえる。

 昨日の現場には、私を含め、三人のマネキンが来ていた。
 豆乳鍋のもとと、りんご。
 気候も関係してか、豆乳鍋のもとは完売だったそうな。

 このマネキンが言っていた。
「私は遠いところは断っているんですよ。一度引き受けると、例えば『明日、野洲に行ってくれる?』
みたいな気楽な感じで電話がかかってきますから。大阪市から野洲ですよ」
 彼女の気持はわかる。

 私も、生活上の必要があったため、
「どんな遠方にも行きますよ」
 と、以前の派遣会社でも、現在の派遣会社でも、公言していた。
 そしたら、実際、片道三時間、時に四時間以上かかる現場での仕事が相継いで入ってくるのだ。
 
 移動はしんどい。
 かつて、十時過ぎに長浜から帰ってきた翌日、四時に起きて、タクシーで二条駅に向かい、始発で
兵庫県城崎郡への仕事に出かけたことがある。
 到着駅の江原に着いたのは、九時過ぎ。
 腰まで積もった雪をかきわけながら、現場の店に向かった。

 担当商品を完売した喜びも手伝い、さほど疲れは感じなかったが、地下鉄最終で家に辿り着き、玄
関の戸を開けるや、立っていられなくなり、その場にしゃがみ込んだ。

 これで、その翌日は体力を回復し、大阪の茨木にカゴメの仕事で出かけたのだ。
 体力があったのだと、つくづく思う。
 
 まあ、結局は、派遣会社との駆け引きね。

 過ぎてしまえば何とやら。
 仕事でないと、出不精の私のこと、江原を訪れることは永遠になかっただろうし、あの素晴らしい
出会いもなかった。

 この出会いについては、後ほど。