小売業の仕事には生活に密着した楽しさがある。

スーパーの青果部門で働くようになって農業を営むご主人の両親との距離が縮まった親友。
もっとも、親友自身も農家の出身。なのに、子ども時代より農家にはマイナスイメージを持っていたとか。
その原因は、彼女の生育歴にあった。

「私が幼稚園に入った頃、家から自転車で30分くらい走ったところに工場が出来て。月に一度、それも決まった日に決まった額のお金が必ずもらえるってんで、父は喜んでそこで働くようになってん」。

ああ、お父さんの気持ち、わかるなー。農業って自営。しかも天候とか雨量とか台風などの自然災害とか、そういう「自分の力ではどうにもならない」要素に収穫量が左右され、したがって収入の差も大きい。そりゃ、20日か25日か30日か知らないけれど、月のうちの決まった日に、これまた決まった額のお金(=給料)を得ることが出来るのはミリョクだわ。
同じ理由で、農家の主人だった私の叔父も、こちらはスクーターで30分かけて工場に勤めに出たんだもん。

「で、私が小学校に上がると、母もパートで食堂に行き始めてね。こちらも固定給がある。農業は、主にお祖父ちゃんとお祖母ちゃんがやるようになり、パート仕事から帰った母がお手伝いで入る。こんな感じになった」。

ふむふむ。そこいらも私の叔父一家と事情が似ているよ。

「両親はもちろん、お祖父ちゃんお祖母ちゃんもよく口にしていた、勤め人はいい、日照りが続こうと、反対に冷夏であろうと、害虫が大量発生しようと、そんなのには関係なくいつも収入があるからって」

そうなのよね。そのおかげで家を立て直したり車やテレビやクーラーを買ったり子どもを上の学校にやることが出来た農家も多かったのよね。
で、大人がこんな風に感じていたら、子どもにもそれは伝わる。
親友が農家出身であるにもかかわらず農業に誇りが持てなかったことを責める気にはなれない。

小売業にも同じことが言えないか。
「拘束時間が長く、肉体労働にして感情労働。心身ともに過酷な仕事。その割には収入が低い。報われんワ」
こんなイメージが定着してしまったのは、当の小売業従事者の自らの仕事への向き合い方も関連しているかも知れない。

本当は小売業の仕事って、生活に密着しているならではの楽しさがあり、単純に金銭に変えられない面もあるんだけれど、、、農業がそうであるように。