「魯山人の食卓」(北大路魯山人 著)

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(注)10月4日に書いた記事。

 

書家、画家、篆刻家、陶芸家、料理家、、、と、さまざまな顔を持ち、おのおのの面で「美」に生きたマルチ芸術家、北大路魯山人の、これは「食」にまつわるエッセイ(1930年から53年にわたって書かれた)を集めた書。
どの項も、いかにも彼らしい「上から目線」な書き方で、そこにかえってある種の清々しさを感じる。


最初の寿司にまつわる話からし
「エェッ」
と、度肝を抜かれる。
なぜなら、江戸前寿司は元々はお茶を飲みながらカウンターで立ち食いするものであり、戦後に椅子を置くようになってお茶が酒に変わった、とあるから。
結果、手短にまとめれば、
「いまの江戸前寿司は本物ではない。寿司屋ではなく自由料理屋だ。そのうち、トマトやコンビーフ、トンカツを使った寿司が出てきそうだし、サンドイッチ寿司なんてものも現れるのではないか」
と述べられている。


トマト寿司。コンビーフ寿司。トンカツ寿司。サンドイッチ寿司。70年後の現在、すべてある!
6歳の頃から養子先の炊事を受け持ち、工夫と研究を重ねて3等米でも1等米のように美味しく炊きあげた魯山人は、優れた味覚のうえに、食の先見性も備えていたのだろう。


魯山人は、その出自や生育歴にまつわる特殊な事情も関係してか、キャラクター的には鬱屈した問題ありの人(彼の生涯をえがいたテレビドラマでは緒形拳魯山人役をしており、そこいらをうまく演じていた)だったが、寿司のこの件だけを取り上げても、やはり非凡な人だったのだね。