「華岡青洲の妻」(有吉佐和子 作)

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華岡青洲の妻」(有吉佐和子 作)

1804年、世界で初めて全身麻酔による手術を成功させた華岡青洲。その偉業を成し遂げた裏には、母の於継(おつぎ)、妻の加恵、姉の於勝(おかつ)など、身内の女たちの献身的な支えがあった。
これは、主に母の於継と妻の加恵との関係、すなわち嫁姑問題に焦点を当て、青洲と同じ和歌山県出身の作家、有吉佐和子によって書かれた小説。

 

(あらすじ)
江戸時代中期を少し過ぎた頃の紀伊(主に現在の和歌山地方)。地元の大名が参勤交代に出かける際にはその宿陣を張ったほどの名家に生まれた加恵は、8歳の時、乳母に連れられて出かけた隣町で、医師である華岡直道の妻、於継(おつぎ)を見かけ、知性と品性も兼ねた美しさのとりことなった。
その於継から
「京都に医術修業行っている息子、雲平(後の青洲)の嫁になって欲しい」
と申し込みを受け、夫不在のまま、21歳で嫁ぐ。
於継は加恵を実の娘のように可愛がり、加恵も於継はじめ華岡家の人から温かく受けいられ、幸福感にひたる。
その幸福感がもろくも崩れさったのは、3年後に夫が修業を終えて帰郷してから。於継の加恵に対する態度が豹変したのだ。
雲平(青洲)は、於継にすれば息子、加恵にすれば夫。どちらの女にとっても愛おしい存在。張り合い、火花を散らす2人は、雲平(青洲)が研究を重ねる麻酔薬の人体実験の実験台を、我先にと申し込むのだった、、、。

 

1970年代初めにおこった有吉ブームの流れに乗り、亡母の書庫からこの作品を探し出して読んだ時は、高校1年生だったこともあってか、ストーリーはともかく、嫁と姑という2人の女の間に流れるドロドロとした感情はどうもピンとこなかった。
それが、還暦を過ぎたある日、古本屋の隅で文庫化された同作を見つけて再読してみれば、実にわかるのだ、、、妻の加恵の気持ちだけではなく、自ら息子の嫁にと望んで迎えた加恵に陰湿な仕打ちをする姑の息子イノチの心理や、それゆえ若い加恵へ嫉妬する心も痛いほどに。
私も歳をとったのだね。