マネキンにとってのおじさん

 月曜日にデモしたコノミヤ放出店でもそうだったんだけれど、こちらが一生懸命仕事をしていたら、
試食しないで買っていってくれるお客さんが必ずいる。
「頑張ってな」
 の一言と共に。
 ほとんどはおじさん。
 雰囲気からして、たぶん、営業か販売の仕事をしているか、かつてしていた人たちだろう。

 私たちマネキンの世界で、実はおじさんはあまり評判がよくない。
 食べるだけ、飲むだけの人がほとんどだからだ。
 それでも、一概に決めつけてはいけない。
 こういうおじさんもいるのだ。

 やっぱり、仕事は一生懸命にするものよ。
 その日の結果はどうあれ、見ている人は見ている。
 それが、次につながる。

 「あおいくま」のうち、私の最大の課題は、「お」。
 とにかく怒らないようにすること。

 アメリカ人と結婚して現在はデンバーに住む学生時代の友人が、七年前に帰国した時に話していたけれど、あちらの白人男性は、意識していなくても人種的な「とらわれ」があると言う。
 あー、何となくわかる。
 東洋にすごく理解がある人でも
アメリカこそがナンバーワンだ。アメリカは世界のリーダーだ」
 なんてニュアンスをチラチラ示すことがあるもの。
 だから、彼女も、ネットで知り合って勢いで結婚しちゃったけれど、最初は大変だったんだそうな。
「反論しようにも、こちらは言葉が自由にならないし、実家は近くにないし」
 そこで、彼女はご主人を持ち上げることにしたんだそうな。
「あなたは強い。私はあなたがいないとこの国でやっていけない」
 と、思わすふうにしたそう。
 ひとまずは下に出て、我が妻は大和撫子だと印象づけたのだ。

 もちろん、いつもいつもイエスウーマンではいけない。
 時には、飼い猫が主人をひっかくように、ま、そこいらはうまくね。

 この話を聞いた時、私はこれは接客にも応用出来ると思った。
 お客様を持ち上げ、向こうに優先権を与えたと感じさせる。いい気にさせるわけ。
 そして、たまには
「ねえ、お客さん、助けて下さいよ。売れへんかったら、私、メーカーさんにえらい怒られます」
「販売ノルマ果たさないと、私、クビになるかも知れないんですわー」
 とか、哀れな声と表情でお願いする。
 これ、おじさんにはかなりの効果があるよ。

 とは言え、お願い一辺倒でもダメ。
 ほんのちょっぴり引っ掻く。
 ここが秘訣。

 この方法で高いもろみ酢を売ったことがあったな。
 五年前の夏だ。