シェービングして一皮剥ける

 これから理容店にシェービング(顔そり)に行く。

 手先が不器用な私。いつも眉の形がきれいに整わない。
 割り切って、プロにやってもらうことにしたのは、何年前だったか。

 それにシェービングしてもらうと、肌がつるんと剥けたように透き通る。
 鏡に向かうのも楽しくなる。

 「未婚の母」を売物にマスコミに登場し、一世を風靡したエッセイストの桐島洋子
「五十歳を過ぎて、自分が美人に生まれなかったことを、つくづくありがたいと思うようになった」
 と、雑誌「クロワッサン」のインタビューで語っていたが、私にはあの気持ちがわかる。

 学生時代の仲間に久々に会うと、容貌のあまりの変わりように慄然としてしまうことがある。
 決まって、美人だとか可愛いとかカッコイイとか呼ばれていた人たち。
 事実、三十年ぶりにおこなわれた高校の同窓会で、「我が校の草刈正雄」と呼ばれ、女生徒たち
の熱い視線を浴びていた男前のM君が、三十顎にしてリンゴでも乗せられそうなほどせり出した巨
大な腹を揺すりながら会場に現れた時には、我が目を疑い、強いショックを感じた。
「三年間、私の心の支えだった王子様はどこへ行ったの?」
 
 そうなのだ。M君が美大受験の実技対策のために上京した高校三年の夏休み、思い切って彼の下
宿先に暑中見舞を出したら、すかさず自筆のイラスト入りで返してきてくれた彼のハガキをその後
も大切に大切に保存していたくらいに、彼は我が心に秘めた人だったのだ。
 ライバルが多かったから、彼女になれるなんて、とても思っていなかった。
 ただ、校内ソフトボール大会で空振りばかりしていた私に
「あんたな、振りは抜群。でも、タイミングが悪い」
 と優しくアドバイスをくれた時のように、ほんのちょっと、心にとめておいて欲しかったのだ。
「ああ、あんな子が同級生にいたなあ」
 程度でよいから。

 それが、それが、どうだろう。
 この激変ぶり。
「ちょっと! 何やねん。えらいおっさんになってもうて。頭が寂しくなりかかっているうちのお父
ちゃんの方がよっぽどエエ男やわ」

 時の流れは公平。そして、容赦がない。
 M君ほどでなくても、どんなに美しい人にも、シワは出来るし、加齢によるシミやくすみからも逃
れられない。
 筋肉が下へ下へと落ちてくるから、頬はたるんでくるし、ウェストまわりも豊かになる。

 その点、もとからグッドルッキングでなかった人は、気楽なものである。
 久々に会っても、
「えええええーーーーっ」
 なんて、顔はされないからね。

 さらに、容貌面での不利を補わんと、他の面に目を向け、それを伸ばそうと努力するから、最終的
には、総合力で光り輝くのだ。

 ま、ほとんどの人は、ルックスを売物にする仕事に就くのでなかったら、姿勢と表情でじゅうぶん
補えるやね。

 さ、シェービングして、一皮剥けてこよう!