人間はリラックスしてこそ力を発揮できる。

東京五輪ラソン銅メダリストの円谷選手が、
「父上様母上様、三日とろろ美味しうございました」
で始まる遺書を残して自ら命を絶ったのは、メキシコ五輪が始まる十ヶ月前の冬。
原因は、今度は金メダルを期待されていたにもかかわらず怪我や体調不良などでそれに応えることが難しくなった自分への絶望とも言われている。
責任感が強く、生真面目な人だったのだ。

我々デモンストレーターの中にも、過度の期待、と言うかプレッシャーを店舗やメーカー、時に派遣会社からも与えられ、本来の力を発揮できないまま自滅してしまう人、いますよ。
こちらも基本的に真面目人間ね。

十数年前だったか。我がデモ付近でこんなケースを見た。
その日、私は某メーカーの飲料のお中元用セットが担当で、当然ながらギフトコーナーに立っていた。
すぐ横には、有名ハムメーカーのお中元用セット担当のデモンストレーター
そばで見ていて、彼女が気の毒でならなかった。

なぜって、中元用ハムギフトを扱う畜産の主任が、1時間置きに彼女のところにやって来て、矢継ぎ早にまくし立てるのだ。
「去年、このハムギフトを担当した人は、一日にこれだけ売った」
「もっと大きな声を出して、(お客様を)呼び込め」
「商品説明が不十分」
「試食をどんどんどんどん出せ」
さらに、午後1時近くには、ポスで出した数字を持ってきて、畳み掛けるように彼女に迫ったものだ。
「まだこれたけしか売れてへんで! 去年の人は午前中にこの倍は売っとった。もっと気合いを入れんかい!」。

この主任。自分では真っ当なことをしているつもりなのだろう。
デモンストレーターが来たからには、店の利益のために売って欲しい。それが目的でこちらが頑張れとハッパをかけて何が悪い?」
こう言うだろう。
実際問題としても、彼の言動に不当性は微塵もない。
ないのだが、、、。

皆さん、ようく考えてみて。
こんなふうに、絶えず監視され、次から次へとガミガミ言われ、数字なる「逃げ場のない証拠物件」まで突きつけられた結果、当のデモンストレーターが発奮すると思う?
思わないよね。むしろ逆。デモンストレーターは追い詰められた心理状態になり、カラダもココロも緊張しきって、表情はこわばるわ声は上ずるわで、お客様に接することも苦痛になるのではないか。

私自身も、この仕事に就いて何年目かのある日、似たような体験をした(京都府内の全くはやっていない店で肉のデモ。そこのオープン時からのパートスタッフと自慢するおばはんにプレッシャーをかけられまくった)し、売上にやかましい高級鶏肉のデモの専属にされかかった時には、それのデモ日の前日になると「動悸が早くなり、心臓をギューッとわしつかみされるような痛みに襲われる」症状に二度ほど見舞われた。
それらを経て、現在、つくづく感じることは、「人間は緊張すると内に閉じる」ということ。
リラックスしてこそ、力を100%、いや、時に120%までも発揮出来る。

そもそも、自分の立場を利用して相手に異様なプレッシャーを与えるのは、ある種のパワハラですよ。

写真は、円谷選手(wiki搭載画像。パブリックドメイン)。
明後日は彼の命日。
同期の君原選手もメキシコ五輪ラソンで銀メダルをとった際に「円谷君が導いてくれたのだ」と語っていたように、マラソン史上で初めて日本にメダルを与えてくれた彼に感謝すると同時に、謹んでご冥福をお祈りしたい。

イメージ 1