心温まるエピソードも小売業ならでは。

今日は奈良県の某ドラッグストアで栄養ドリンクのデモ。
地域密着型店舗だからお客さんは多くないし、それも年金暮らしのお年寄りがメインで、かつ担当がまだ知られていない新商品。
販売は楽ではなかったねえ。
ただ、最寄駅および店周辺の景観は美しく、仕事とは無関係に、例えばハイキングで訪れたら面白い地かも知れないね。

「私はこの仕事が大好きなの」と語った某大手スーパーのレジ係の話を前回で紹介した。実は、似たようなことを言う人、小売業界で長年働いている人には多い。
商品を介してはいても、素晴らしさもいやらしさも存分に持ち合わせている生身の人間とダイレクトに接するのが小売の仕事。好きでないとつとまらないだろう。

「いつも舌を噛みそうな横文字名のマニアックな素材や調味料を買うお客さんがいてはってね」
と、そのレジ係は私に話し始めた。一応はチェーン形式になっていても実態は兄弟たちが各店の店長をつとめる親族スーパーの某店で何十年とレジを打っている女性である。
「お客さんとの雑談でわかったんやけど、ご主人が仕事がら海外に行くことが多く、各国で美味しいものを食べ慣れてはんねんて。で、帰国すると奥さんに外国で食べた珍しくて美味しい料理をリクエストし、奥さんは料理本片手にそれを作る。そういう繰り返し」。

ある日突然、くだんのお客さんは来店しなくなった。再び店に顔を出すようになったのは、ざっと半年後だが、今までとは打って変ってインスタント食品やら出来合いのお惣菜を買うことが多くなった。
「他のお客さんからの 情報では、ご主人が急に倒れはって、入院手術の甲斐もなく、亡くなりはったと。奥さん、そりゃ、料理する気も失せるわなあ、、、」

お客さんの通いの店のレジ係である彼女に出来ることは、せめて優しく接すること。心の中で「元気出して下さいね。天国のご主人のためにも、早く元の奥さんに戻って下さいね」と願うこと。

その気持ちが通じたのかどうか。徐々にお客さんの買い物の内容も以前の凝ったものに返っていった。
「これも他のお客さんに聞いたこと。奥さんは元々ピアノの先生で、娘さんもそうなんやて。で、娘さんの旦那さんも海外出張が多くて、グルメ。ご主人亡き後しばらく経って、月に一度くらい娘さん一家が奥さん地に来はるようになったんやけど、そのうち奥さんの昔のピアノ仲間や娘さんの教え子やらも加わるようになって、パーティをするようになったって。奥さん、また異国の料理を作る機会が出来たんやねえ。で、それが励みになったわけや」。

レジ係は良かった良かった、お客さんがずんずん笑顔を取り戻していってくれて自分のことのように嬉しかったと、彼女もまた笑顔を見せた。

こんな心温まるエピソードが味わえるのも、業種がら個人の生活面に密接することが多い小売業ならでは。