ほどほどのマネキン

昨日、何度両足が痙攣したことだろう。
 朝風呂に時間をかけて入ったわりには、あまり効果がなかったようだ。

 風呂に入ったついでに、ヘアダイとシェービング。
 金銭的にピンチの状態なので、今回は眉の形がおかしくなるのを承知で、自分でおこなった。
 失敗した箇所はブローでカバーすればいいわけだし。
 
 寝床に入ってからも痙攣は続く。
 痛みで夜中に何度も悲鳴をあげた。
 今朝になっても残っている。
 昨日の福知山行きがキャンセルになって、本当によかった。
 トリップして、気分は空を舞っていても、身体は正直。
 五日連続勤務で疲れきり、しかも、月曜日の現場が三方から冷気が吹き寄せてくる場所だった上に、
午後からの大寒波。
 帰路は降りしきる粉雪にずぶぬれになった。

 昨日の午後。
 DVDで「イブの総て」を観た。
 内幕ものと言うか、才能も野心もある、でもコネだけがない田舎の演劇好きの女の子が、人気脚本
家の妻とその親友である大女優に取り入り、ついには彼らをも踏み台にしてブロードウェイのスター
への道を歩んでいくストーリー。
 
 かなりの確率で、実際のあの世界もあんなものなのだろう。
 実力や美貌は、皆、似たり寄ったり。
 だから、人を押しのけ、陥れ、利用してでも、上がって行く。
 周囲に
「何て不謹慎な!」
「裏切り者! 」
 と叩かれ、罵られ、嫌われても、気にしない。
 むしろ、バッシングされればされるほど、彼女(彼)は光り輝く。
「ねたまれるのも、光栄なことよ」
 と、堂々と胸を張って。

 演劇賞授賞式で、主人公イブに役を奪われた大女優マーゴ(無名時代のイブを拾い、仕事を与え、
面倒をみてやった)が、こう語りかける場面があった。
「賞は大切だわ。でも、心も大切にね」

 マーゴはイブの策略で演劇界を葬られた後、慰めにかけつけた恋人のビルと結婚。平凡な主婦に
なっていた。
 それでも、現在のマーゴは幸福なのだ。
 でないと、あのセリフは出ない。

 もうあまり無理をしないようにと思う。
「売上の新記録が出たね」
 とメーカーに言われたこともあるし、デモンストレーション中に、他の派遣会社から
「うちに来てよ。あなたならギャラはこれだけ出す」
 と幾度か声をかけられ、テングになっていた時期もあるけれど。

 私もけっこうのめりこみやすいタイプ。
 でも、この痛み。

 もう無理をしないでおこう。

 のらりくらりと、ほどほどのマネキンでいい。