背骨の傷み

彦根から帰ってきた。
 担当商品は、おなじみ、ラブレ。

 中学生の時に背骨がS字に曲がってしまう病気(脊髄側湾症と言うらしい)を患ったことと関係が
あるのか、不調になると、決まって身体の左半分がおかしくなる。
 左膝が腫れたり、左目がかすんだり、左足の腿が痙攣したり。
 腰も左側だけが痛くなる。

 今日もそうだった。
 左手があがらないのよ。
 少しでも動かすと、肩から背骨にかけ、鋭い痛みが走る。

 痛みのために不自然にならざるをえないジェスチャーは、右手と笑顔でカバーしたけれど。

 仕事仲間の一人に指摘されたことがある。
「あんた、歩き方がおかしい。肩の高さも左右で違う」
 かちんときた。
 でも、彼女は普通のおばさん。脊髄側湾なんて病気のことは知らないはず。悪気で口にしたので
はなかろう。
「あ、それ、私の病気のせいです。背骨が曲がっちゃう病気しまして。だけど、日常生活には支障
ないですから」
 明るく言い返した。
 これが大切。

 欧米の文学や歴史をひも解いていると、脊髄側湾だった人はかなり多いとわかる。
 それでも、彼女たち(女性が圧倒的)は、フツーに生きている。
 もちろん、姿勢が要求される仕事はあきらめないといけないけれど。
 とは言え、そんな仕事はごくわずか。

 もしかして、日本だけが騒いでいる?
 有名な沖ヨガに長年通って指導者の地位も得た人が、私の脊髄側湾を又聞きの又聞きで知り、こ
う判断したそうな。

「身体が歪んでいると言うことは心も歪んでいる。一刻も早く矯正した方がよい」

 ひどいセリフだ。
 何が矯正だよ。
 そもそも、お前は何様かね。人を「歪んでいる」と切って捨ててしまえるほどの人物かね。
 こんな器の狭い人間が指導者になるのが真実なら、沖ヨガもレベルが知れているものだ。

 O・Sなる東洋医学研究家にもむかついた。

「あなたの背骨が曲がったのはものの考え方が悪いせいです」

 このO・Sの治療。それはそれは痛かった。脂汗が出た。
「こんな痛い思いまでして、どうして背骨を真直ぐにしないといけないの? 曲がっていたって、
私は特に不自由はないのに」

 吃音で悩んだ時期もあったから感じるけれど、一般に、日本人は「平均」からはみ出した部類
に関してはとてもキツい民族だと思う。
 欠点はあくまで欠点とみる。間違っても「個性」とは見ない。
「吃音は個性だよ」
 大学生の私にこう気づかせててくれたのは、アメリカ人だった。日本人ではなかった。ここが
悲しい。

 最近、とある整体師のブログを読んでいたら、こんな一文が目に止まった。

「人間の背骨は多少S字に曲がっている方がいいんですよ。真直ぐはむしろ不自然です」

 嬉しくなったね。