四月は考えない

 四月二十九日に仕事が入ってきた。
 派遣会社Cから。昨日に電話をした甲斐があったというものだ。
 これで、四月はやっと七日になった。

 反対に、五月は既に六件も仕事をいただいている。
 発想を変えよう。
 四月はもう考えない。
 六月の支払いが気になるが、幸いこのところは派遣会社Cの仕事が多く、ここは一週間で
ギャラも立替金も精算してくれる(その代わり、派遣会社Aと比べると、ギャラは???)。
 何とかなりそう。

 朝からメリメ原作「カルメン」を再読していた。中編なので、二時間もあれば楽に読了出
来る。
 
 この恋愛小説を初めて読んだのは、十二歳の時。中学校一年になってまもなくの春だった。
「ようわからん」
 と言うのが本音だった。それでも、ラストでホセが最愛のカルメンを手にかける場面には
息を飲んだ。コトバであらわせないくらいだった。カルメンはホセに喉をさされながらも、
きっと愛するこの男が私を殺すなんてと信じられなかったのだろう、苦悶の色を浮かべるこ
となく、目をまっすぐ開いてホセを見つめ、息絶えるのだ。
 ここいらあたりの描写は、恋のコの字も知らなかった十二歳の私にも強く印象に残ったし、
カルメンの心理もわかる気がしたものだ。

 今回、読み直す気になったのは、少し前、「カルメン」を映画で演じた不世出のオペラ歌
手、マリア・カラスの生涯をえがいた映画を観たことによる。
 12歳の時に読んだ「カルメン」と五十路を過ぎて読んだ「カルメン」。
 受ける印象は大きく違う。
 当然だが、面白いね。

 ヒマな四月は、こういう「面白さ」を楽しもう。
 長岡天神ツツジを見にも行かないと。

 余談ながら、十歳から十二歳にかけて、本当に私は背伸びしていたね。わかりもしないの
に、大人向け恋愛小説を母親がとっていた雑誌などで読んでいたから。梶山何とか、そうい
うの。
 よろめきの意味も知らないのに三島由紀夫の「美徳のよろめき」を読んだのは、小学校五
年生の時。
 それでも、インパクトがあった一部分は鮮やかに覚えている。
 活字の怖さを思う。